エルダー2022年1月号
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2022.12実践女子大学 人間社会学部 人間社会学科 教授原田 謙さんをどうみているのかという研究も少しずつ出始めています。 また、社会老年学では「サクセスフル・エイジング」、つまり幸福な老いの条件とは何かが探求されてきましたが、幸福な老いとは心身機能が高く維持され、生活への積極的な関与がある状態とされています。それに対しバトラーはエイジズムが高齢者の社会への関与の阻害要因になっていると唱えています。つまり、高齢者といえば介護や社会的コストがかかるという「依存」の存在ではなく、「プロダクティブ・エイジング」(高齢者の生産性)という新しい発想を提起しました。この提起は50年を経た現代でも色あせていませんし、ますます重要になっています。―原田さんは、日本の若者が高齢者をどうみているのかについて、エイジズムの観点から調査・分析をされていますね。原田 高齢者が就業を継続していくうえでエイジズムが阻害要因になっているのではない―原田さんの著書『「幸福な老い」と世代間関係』では、エイジズムを切り口に高齢者と若者の関係を分析されています。エイジズムという言葉の意味と社会に与える影響について教えてください。原田 エイジズムとは「年齢にもとづく偏見・差別」のことです。レイシズム(人種差別)、セクシズム(性差別)と並んで〝第三のイズム〞といわれています。 エイジズムという考えの歴史は古く、アメリカの老年学者のロバート・バトラーが1969(昭和44)年に初めて紹介しましたが、当時は「高齢者に対するかたよった見方や差別」と定義されていました。しかし当時は日本も高齢化率は低く、1970年に7%超の「高齢化社会」になり、1994年に14%超の「高齢社会」、そしていまは20%超の「超高齢社会」になり、高齢者は少数派から多数派になりつつあります。逆に高齢者の若者に対するエイジズム、つまり高齢就業者が若者かという仮説のもとで調べようとしたのが最初です。しかしどういう物差しを使って高齢者に対する感情や態度について測定すればよいのか、非常にむずかしい。そこで海外の研究を参考に「誹ひ謗ぼう」、「回避」、「嫌悪・差別」の三つの側面から調査しました。ステレオタイプのかたよった見方である「誹謗」は「古くからの友人でかたまって、新しい友人をつくることはしない」、高齢者を「回避」しようとしている感情は「高齢者と長い時間を過ごしたくない」、「嫌悪・差別」は「高齢者には地域のスポーツ施設を使ってほしくない」といったかなり強い表現など、三つについて計14項目で測定しました。―興味深いですね。分析の結果、得られた知見とはどういうものでしょうか。原田 海外の研究者のなかには「日本人は敬老の精神があるからエイジズムが低いだろう」という意見もありますが、それほど単純なものではありません。例えば、祖父母との同居経験の有無にエイジズムとの関連はみられず、高齢者と日常的に接触していればエイジズムが低くなるものではない、という結果が得られました。 一方、生活満足度が低い人、老後の不安感高齢者がマジョリティになりつつあるいまエイジズムが高齢者の社会参画を阻害する

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