エルダー2022年1月号
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同一資格同一処遇の原則などが特徴としてみられることが多いといわれます。降格との関係で障壁となるのが、昇格・昇進原則があることです。職能資格制度においては、原則として、人の能力は育成により成長していき、職務が変更されても能力が失われることはなく、年功とともに昇格・昇進が続いていくことが前提となっています。そのため、「降格」というのは、極めて例外的に属人的な能力が失われた場面にしか機能しないと考えられます。そのため、就業規則上の根拠は当然必要であるうえ、降格にともなう賃金の減額などに対しても、人事権の濫用とされる範囲が広いと考えられます。一方で、職務等級制度の場合は、労働者の「職務」に着目して賃金制度を設計するもので、「ジョブ型」などと表現されるのはこのような制度です。現に行っている「職務」の価値に応じた対価として賃金を支払うという考え方であるため、いかに能力があったとしても、それを発揮するような内容の職務を行っていないのであれば、賃金が減額されることがあり得るという前提を有しています。とはいえ、賃金の減額を引き起こす以上は就業規則上の根拠は必要と考えられていますが、人事権の濫用とされる範囲は職能資格制度と比較すれば緩やかに評価される可能性があります。職務等級制度における降格が問題となった裁判例2東京地裁令和2年12月18日判決(ELCジャパン事件)においては、職務等級制度を採用している企業における異動にともなう賃金減額が問題となりました。事案の概要としては、アメリカに本社を有する日本法人が、事業部門の廃止にともない、原告に退職勧奨を行ったところ、これを拒まれたことから、解雇するのではなく異動を命じて、アシスタントマネージャーという職務に就くことになり、賃金が減額されるに至ったというものです。人事権の濫用に該当するか否かについては、不当な動機または目的がある場合が典型的ですが、この点は原告に対する個人的な不満があったとしても、それが事業部門の廃止につながるとは考えがたいとして否定されています。原告に生じた不利益の程度が大きいほど、人事権の濫用とされやすいのですが、減額の程度が月額1万円程度であったこと、賞与の算定方法が変更となるが、一概に比較することはできないことなどから、大きな不利益ではないと評価されました。結果として、降格にともなう賃金の減額は法的に有効に行われたものとされました。なお、この事件では、この降格だけではなく、その後に配置転換が実施されるに至っており、その有効性も問題となりましたが、こちらについても、賃金水準が確保されるような配置転換であること、原告の希望に見合うほかの役職が存在していなかったことなどから、これまでのキャリアとは異なるような職務内容であっても、その配置転換に不当な動機・目的は認められず、有効であると判断されています。当該裁判例は、外資系企業であり、職務等級制度が採用されていることが明確な企業でした。このような企業においては、当初の職務の決定は企業にとっても労働者にとっても重要であるため、職務を変更すること自体の必要性が高くなければならない可能性はありますが、必要性が認められる場合には、職務内容の変更にともなう賃金の減額も許容されやすいといえるでしょう。日本の企業においては、「ジョブ型」の賃金制度を設計している企業は多くはありませんが、同一労働同一賃金を徹底する場合、「職務」に着目した賃金制度は、同一労働である範囲での同一賃金の実現と相性がよいといえます。既存の賃金規程自体を改定することは、従業員への影響も大きくなりやすく、経過措置を定めるなど漸次的に導入するといった工夫や将来賃金への影響のシミュレーションも必要となりますが、今後の対策として選択肢に入る企業もあるでしょう。エルダー49知っておきたい労働法AA&&Q

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