エルダー2022年1月号
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■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー53力人口のうち、職がなく求職活動をしている人の割合)が5・0%と雇用環境が厳しい時期でした。業務上必要な労働者よりも雇用している労働者が多いという雇用過剰感が企業から叫ばれている時期でもありました。この状況下で、喫緊に対応しなければならないとされていたのが、企業内に在籍している社員の雇用維持でした。この対策としてのワークシェアリングは、一人あたりの業務量や業務時間を減らして、現在すでに雇用されている者同士(特に正社員)で分かち合うというものでした。雇用維持による企業の財務状況の悪化を防ぐために、業務時間の短縮分の労務が提供されていなかったとして、ノーワークノーペイ分の給与の削減なども行われていました。この点を含めて、日本経営者団体連盟(使用者側)と日本労働組合総連合会(労働者側)で議論・検討し、2002年には、ワークシェアリングについては、労使で協議しながらともに推進していくことで合意し、「ワークシェアリングの取り組みに関する5原則」を発表しています。中長期的な課題への対応次に、中長期的な課題への対応ですが、先の四つの類型のうち、③雇用創出型、④多様就業対応型が該当します。先の雇用過剰感があった時期と同時に提唱されているのが興味深いのですが、少子高齢化にともなう生産年齢人口(満15歳以上65歳未満の人口)の減少へ対応するための方策としてワークシェアリングが位置づけられています。当時主流だったのはフルタイム・残業あり・全国転勤あり・職務の制限なしといったいわゆる正社員的な働き方でした。このような働き方が可能なのは、特に出産・子育て・体力等により時間的な制約を受けないとされる60歳以下の男性が労働者の中心であり、このままでは将来的に人手不足になることが問題視されていました。そこで、時間や労働環境の制約で従来は労働力として取り込みにくかった女性や高齢者を含めて労働者の対象を増やし、労働市場全体のなかで労働時間や業務量を分かち合うことで生産性の向上を図っていくことをワークシェアリングで実現しようとしています。その実行策として、時短や多様な働き方の推進、雇用形態にかかわらない公正な処遇の実現などが、先述の報告書や5原則にも記載されています。現在も継続しているワークシェアリングの取組みさて、現在に目を向けてみましょう。新型コロナウイルス感染症の影響で経済的に打撃があったといわれている2020(令和2)年時点でも、有効求人倍率1・18倍、完全失業率2・8%、2021年の正社員が不足している企業は40・7%に対して、過剰な企業は13・6%(「人手不足に対する企業の動向調査」帝国データバンク 2021年7月調査)と20年前とは雇用環境が大きく異なります。この状況を反映し、短期的な課題に分類した①②雇用維持型については現在話題にあがることはほとんどありません。一方で、中期的な課題に分類した③雇用創出型、④多様就業対応型については現在も継続しています。中長期的な課題で解説した文脈を目にしたことがあるとお気づきの方もいるかもしれませんが、本連載でも取り上げた働き方改革や高齢者の雇用義務化、同一労働・同一賃金といったように、具体的な施策として取り組まれています。道半ばの部分もありますが、子育てしながらの就労や高齢者の就労機会、フルタイム以外の働き方などはあたり前のように受けとめられる社会となっているため、20年前に課題提起されていたことが実現に向けて着々と前進しているともいえます。☆  ☆今回は「ワークシェアリング」について解説しました。次回は「戦略人事」について取り上げます。

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