エルダー2022年1月号
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2022.14ムを経験している人ほど仕事の満足度が低く、さらにメンタルヘルスの状態も悪くなるという結果が出ています。逆に上司や同僚のサポートを得て、職場の若い人に自分の経験や知識を伝えることができている人のほうが、仕事の満足度が高いのです。 また、日本では60歳以降の継続雇用などで、いままでやってきた仕事と違う「初歩的な業務」をまかせることも多いのですが、その結果「自尊感情」を傷つけられることになります。自分の役割として何かを伝えられていれば、自尊感情が高まりますが、そうでないと仕事の満足度が低くなり、結果として健康が悪化することにもつながる。そうした知見が職場とエイジズムの研究でみえてきました。―60歳以降も意欲的に働いてもらうには重要なポイントですね。原田 そうですね。また、職場のエイジズムを低減するには若者と高齢者がお互いの得意な分野で補完し合うのも有効です。例えば、若者はITスキルに長けていますが、高齢者がもつ技能や営業スキルを若者に伝えるだけではなく、可能であれば若者がもつスキルを教えてもらう。お互いが補完し合う関係になれば、高齢者が若者を回避することもなくなります。お互いの長所を活かした補完的な関係性を職場に取り入れてほしいと思います。―エイジズムをなくし、高齢者が活き活きと暮らせる社会にしていくための取組みとは何でしょうか。原田 生涯現役時代を迎え、若いころに学校で学び、社会人になって60歳で定年し、引退して地域で暮らすという、これまでの「教育」・「仕事」・「引退」という枠組みが消えつつあります。定年退職のように制度的な年齢による「隔離」が一定の社会的意義をもったことも事実ですが、逆に年齢による区別がエイジズムの観点ではマイナスになることも多かったと思います。年齢の壁をすぐにこわすことはできないにしても、人生100年時代を考えると、例えば大学での学び直しなど、年齢の壁を越えたニーズも高まりつつあります。また、70歳まで就業する時代になると「職場で年齢を基準にしない」ことが今後重要になっていきます。さらに地域には子ども会、老人会や児童館、高齢者集会所などの施設があります。年齢で分離するのではなく、職場も含めて地域でも若い人や高齢者など世代間の重なり合いをつくり出していくことが重要ではないでしょうか。―働く個人の生き方が問われてくるように思います。原田 私の知り合いに、定年前にNPO法人に出向した人がいますが、同じ職場でずっと働くのではなく、自分のスキルを活かしながらNPOという中間的領域で活動するのも多様な働き方の選択肢といえます。バリバリ働いてきた人が定年後にいきなり地域に戻って活動をするのはなかなかたいへんです。自分ができることは何か、楽しいと思うことは何か、家族との関係を含めて個々人が常に自己点検しながら、幸福を高める働き方を再設計していくことが必要になると思います。年齢で区別をせず、若者から高齢者まで世代間の重なり合いをつくることが重要(聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)実践女子大学 人間社会学部 人間社会学科 教授原田 謙さん

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