エルダー2022年4月号
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特集高年齢者雇用安定法改正から1年をふり返るエルダー17が実質的に60歳時点の半分程度に一律に下がるうえ、管理職は役職を外れ、仕事の内容も現役社員のサポートなどの補助作業に従事しているのが一般的です。企業としては公的年金の支給の空白期間を埋めるための〝福祉的雇用”という意味合いも強かったのですが、しかしその結果、逆に継続雇用社員の働くモチベーションの低下が大きな問題になっています。そうした問題の解決を含め、さらに希望者全員の70歳までの継続雇用を実施することに大きな負担を感じている企業も少なくありません。一般社団法人定年後研究所が大手企業26社の企業人事担当者に実施したヒアリング調査(「70歳現役時代に向けた企業と個人の確かな足音」2021年10月)によると、「まずは定年を65歳に延長することを検討しているが、他律的でぶら下がり意識が強い社員も存在しているので、現在のまま、単純に70歳まで希望者全員を雇用延長することは難しい」との声もあります。対象者基準を設ける企業が多いなかで、希望者全員継続雇用を実施する企業もあります。大手機械メーカーの人事担当役員は「最大の理由は将来的な人手不足への備え。ただし現場のヒアリングでは、希望者全員にすれば新しい技術に追いついていけない人が発生し、現場の阻害要因になるため、働く意欲があり、スキルを活かしたい人に限定するべきとの意見もあった。そうした意見をふまえ、改めて60歳以降の再雇用制度についてシニアの活性化をうながすために処遇制度などを見直し、70歳までの一気通貫の制度にしていくことを確認。その結果、65歳で線引きするのではなく希望者全員でよいのではないかということになった」といいます。60歳以降の継続雇用制度の生産性や社員のモチベーションが低下している企業は希望者全員の雇用に消極的になりがちであり、一方、同社のように将来に備えて高齢者を戦力化したい企業は、検証を行ったうえで処遇制度全体の見直しに着手する動きも始まっています。実は65歳定年制や70歳までの希望者全員継続雇用を打ち出している企業の多くが導入しているのが、職務・役割給制度、いわゆるジョブ型人事制度です。日本の伝統的な職能資格制度は本人の能力など「人」を基準に給与を決定するためにどうしても年功的運用に陥りやすいといわれます。職務給は年齢や能力に関係なく本人が従事する職務やポストで給与が決まり、また職務を果たせない、あるいは職務レベルを超える働きをすれば、随時降格・昇格(職務変更)も実施され、給与も増減する仕組みです。運用しだいでは従来の固定的な年功給と違い、人件費を変動費化できるメリットもあります。例えば70歳定年制を導入した通信系企業は、従来の職能資格制度を廃止し、ジョブ型の年俸制を導入しました。同社の人事担当執行役員は「年齢に関係なく正しく評価して登用し、給与も適切に配分する仕組みに変えたので、理屈としては年功カーブもない。役職定年も廃止し、高齢でも能力があれば役職に就く。70歳定年にしたことで他社の社長から『人件費が増えるのでは』と質問されるが、総額人件費を一定に保ち、30歳や65歳でも職務と成果に応じて支払っていればコストアップになることはない」といいます。実は70歳就業確保措置を検討する企業のなかには、60歳以上の継続雇用者を対象にジョブ型人事制度を実験的に導入するところもあるそうです。年功的賃金カーブもなく、保有スキルと専門性を分析・評価し、市場賃金と連動した職務給制度を導入し、働く意欲や生産性などを検証したうえで現役世代への導入を図る予定です。仕事の切り出しがむずかしい業務委託人材としての“能力”の視点も重要ところで前出の経団連の調査では、創業支援等措置の業務委託契約による就労を検討している企業が18・7%もありました。前出の定年後研究所のヒアリング調査によると、「昨年(2

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