エルダー2022年4月号
42/68

はじめに1ここまで主に、キャリアの視点から理論を紹介してきましたが、より広く、生涯発達の観点から、成人期以降の発達やトランジションについてみる見方もあります。多くの優れた研究がありますが、誌面もかぎられていますので、エリク・H・エリクソン、ダニエル・J・レビンソン、日本の岡本祐子の理論を紹介し、生涯発達の視点からシニアのキャリアについて考えてみたいと思います。エリクソンの8段階モデル2アイデンティティ(自我同一性)などで有名なエリクソンは、人間のライフサイクルを8段階に区分し、それぞれの段階で心理的・社会的危機を克服することによって、次の段階へと進む動機づけが得られるとしました。エリクソンは、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトや、人生の後半期に初めて着目したカール・G・ユングの流れを汲む精神分析学者であり、発達心理学者でもあります。彼が示した8段階は、乳児期(Infancy)、幼児期初期(Early childhood)、遊戯期(Play age)、学童期(School age)、青年期(Adolescence)、前成人期(Young adulthood)、成人期(Adulthood)、老年期(Old age)です※1。エリクソンは、これらのうち、基本的信頼感の獲得が課題である幼児期初期とアイデンティティの獲得が課題である青年期を重視しましたが、ここでは、もう少し上の年代について見てみましょう。彼は、「成人期の発達課題は世代性(Generativity※2)である」としました。世代性という言葉は、エリクソンの造語ですが、単に子孫を生み育てるだけでなく、自らつくり出したもの※1  エリクソンは、各段階について、発達課題が達成されない場合に生じる問題点を、対立概念として示している。成人期の対立概念は「停滞(Stagnation)」、老年期の対立概念は「絶望(Despair)」である※2 エリクソンの造語。「生殖性」と訳されることも多い事業創造大学院大学教授浅野 浩美 健康寿命の延伸や、高年齢者雇用安定法の改正による70歳就業の努力義務化などにより、就業期間の長期化が進んでいます。そのなかで、シニアの活躍をうながしていくためにも「キャリア理論」への理解を深めることは欠かせません。本企画ではキャリア理論について学びながら、生涯現役時代における〝シニアのキャリア理論〞について浅野浩美教授に解説していただきます(編集部)。シニアのキャリアを理解する生涯発達の理論からみたシニア第4回

元のページ  ../index.html#42

このブックを見る