エルダー2022年4月号
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を責任を持って次の世代に伝えていくことをさします。後輩の指導、育成などもこれに含まれます。エリクソンの妻で共同研究者だったジョウン・M・エリクソンは、夫との共著※3のなかで、「この世代性という概念は、発表が迫った段階で気づいたもので、これが加わったことによって、7段階が8段階となり、モデルが完成した」と書いています。成人期のあとの老年期の発達課題は、統合(Integrity)です。物事を一つにまとめることによって、英知を備えるというものです。その一方で、後年、エリクソンは、8段階モデルを理論化した時代をふり返り、(いわゆる長老ではなく)「年齢より相当若く見える単なる年配者」が増え「世の中の老年期に対するイメージはすっかり変化した」といっています。そして、だれもがきわめて高齢まで生きる時代が到来する時代に向け、統合の意味について考えておくべきだと指摘しています。エリクソン自身は、「80歳になったころに老人になったことを初めて認識し始めた」といっています。また、ジョウン・M・エリクソンは、夫と話したことをもとに、彼の死後、「80代や90代はそれまでとは異なる」として、老年的超越を課題とする第9段階(80〜90歳)を付け加えています。実際に、エリクソンは90歳ころまで、研究・執筆活動を続けています。いまの日本は、まさに、「だれもがきわめて高齢まで生きる時代」そのものであり、「年齢より相当若く見える単なる年配者」が数多くいて、より長く働くことを求められている時代だといえます。企業においても、「年齢より相当若く見える単なる年配者」たちに、どんな役割を果たしてもらうべきか、考えるべきだということでしょう。レビンソンの「人生の四季」3レビンソンは、工場労働者・会社の管理職・学者・小説家という四つの職業グループの中年男性合わせて40人のライフ・ヒストリーを分析し、その結果をもとに、人間は成人した後も変化し続け、一定の段階をふんで発達していくことを明らかにしました。そして、人間の発達段階を「人生の四季」にたとえ、男性のライフサイクルを、プレ成人期(Era of preadulthood:0〜22歳)、成人前期(Era of early adulthood:17〜45歳)、成人中期(Era of middle adulthood:40〜65歳)、成人後期(Late adulthood:60歳以上)に分け、境目にある最初の5年間を「過渡期」(次の段階へ進む準備期間)としました(図表1)。レビンソンは、この過渡期は、不透明で不安定な時期だが、立ち止まって自分をふり返り、次の安定期に向けた選択を行うチャンスでもあるとしています。また、40代前半に迎える人生半ばの過渡期を、特に重要な時期であるとしました。過渡期というのは、第3回(2022年3月号38〜41頁)で扱った「転機」のようなものと考えられますが、彼によると、老年への過渡期は、老年期へ向けての生活設計を行うべき時期ということになります。レビンソンは、各発達段階の開始年齢や終了年齢には、「意外なほど個人差がなかった」といっていますが、逆にいえば、かなり違いがあることを想定していたということかもしれません。年齢は示されていますが、彼の著書※4によると、彼が重視しているのは順序であって年齢ではありません。エリクソンとレビンソンは、同時代の研究者で、互いに影響を受け合っていますが、成人発達について、エリクソンが内面を見ているのに対し、レビンソンは生活構造の発展ととらえているという違いがあります。彼らのモデルは階段を上っていくようにも見えますが、エリクソン、レビンソンとも「ある発達段階がそれ以外の発達段階よりもレベルが高いということはない」といっています。※3 Erikson, E. H., & Erikson, J. M. (1998). The life cycle completed (extended version). WW Norton & Company.※4 Levinson,D.J.(1978). The seasons of a man's life. Random House Digital, Inc.エルダー41シニアのキャリアを理解する

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