エルダー2022年4月号
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働契約は効力が生じないものとされています(労働契約法第12条)。これを就業規則の最低基準効といいますが、労働契約に定めがない部分については、補充することになり、定めがある場合には労働者の立場から評価したときに就業規則よりも不利な内容については、就業規則が最低基準として内容が置き換わることになります。最低基準効と留意点について2最低基準効があったとしても、会社が定めた内容なので、さほど支障がないと思われるかもしれません。とはいえ、最低基準効が生じるということの意味は、実は単純なものではありません。問題が生じる一例として、試用期間の延長規定を設けているか否かというケースを想定してみましょう。労働契約には、試用期間を3カ月間と設定したものの、試用期間中に本採用を判断するのに必要な材料が整わなかったときに、試用期間を延長したい場合があります。この際、就業規則に試用期間の延長に関する規定を設けていなかったときに、当事者の合意で延長することができるでしょうか。会社の意識としては、試用期間は、労働者にセカンドチャンスを与える意図を持っていることも多いですし、労働者にとっては契約終了にならないというメリットを与えているともいえそうです。しかしながら、法的な評価としては、試用期間というのは「解約留保権付の労働契約」という性質と考えられており、通常の労働契約と比較したときには不安定な法的な地位にあるという評価になります。そうすると、延長の規定が定められていない場合には、不安定な地位を延長しないという就業規則の最低基準があると解釈されて、たとえ、当事者間では延長の合意をしたとしても、試用期間の延長は、就業規則の最低基準効に反して無効とされる可能性があります。このように、最低基準というのは一概に常識的な理解と合致するとはかぎらず、法的な評価をともなう内容であるため、会社の意図した通りの効力が整理されているとはかぎらないことには注意が必要です。就業規則の適用範囲について3就業規則は、正社員(期間の定めのない労働者)、契約社員(期間の定めがある労働者)、パートタイマー(短時間労働者)、嘱託社員(再雇用の契約社員)などに分けて作成されることがあります。このとき、就業規則は、対象とした従業員ごとに定められた内容が適用されることになります。労働契約法第18条において、5年を超えて更新された期間の定めがある労働契約を締結してきたとき、無期転換権が与えられるようになったため、これを行使されたときには、期間の定めがある労働者から期間の定めがない労働者に替わることがあります。このとき、正社員の定義と無期転換権行使後の契約社員は、区別できなくなってしまいます。このような事態にならないように、無期転換権行使後の契約社員に適用する就業規則は、契約社員用の就業規則を引き続き適用する旨を明確にしておく必要もあります。定年後の嘱託社員に適用される就業規則が問題となった裁判例があります(東京地裁立川支部令和2年8月13日判決)。定年後の再雇用契約の際に、使用者から就業規則を再雇用対象となる労働者に交付していたところ、当該就業規則の定める給料や手当が、再雇用に関する個別の労働契約と比べて高額であったことから、就業規則に基づく給与の計算を求めて提訴されたという事案です。裁判所は、使用者が自ら就業規則を交付しており、就業規則の内容は合理的であることから、定年後の再雇用労働者についても就業規則が定める給料や手当に関する規定が適用され、差額を支払う義務を使用者は負担すると判断しました。使用者としては、個別の労働契約で合意していることを根拠に反論しましたが、裁判所からは、仮に合意していたとしても、その内容は再雇用者の給料に関する定めに達しない労働条件であるから無効であエルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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