エルダー2022年4月号
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てしまった場合、重要な情報が提供されていないといったことから紛争になるかもしれません。労働契約の合意解除が無効と判断された場合には、その後に行う業績悪化にともなう契約解除についても、業務委託ではなく、労働契約の解雇として扱われることになります。その結果、労働契約法が定める解雇権濫用法理が適用されることになり、解雇事由の存在に加えて、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性がないかぎり、契約を終了することはできなくなってしまいます。契約切り替え時の入り口部分の対応は非常に重要ですので、ていねいに実施する必要があります。業務委託契約自体が雇用契約とみなされる可能性2双方の誤解なく業務委託契約に切り替えた場合においても、労働契約を締結していたときと比較して、働き方や契約の条件などが業務委託契約への切り替え前と相違ない場合には、たとえ、契約の名目が業務委託契約であるとしても、実質的には労働契約が継続しているものと評価される可能性があります。業務委託契約への切り替えにあたっては、以下のような要素について、労働契約との相違を説明することができるか検討しておく必要があります(本誌2019年7月号、2021年5月号参照)。すべての点について相違がなければならないわけではありませんが、相違がない要素が少ない方が望ましいとはいえます。① 仕事や業務への指示に対する諾だく否ひの自由があるか②業務遂行上の指揮命令がないか③ 勤務場所や勤務時間の拘束の程度が強くないか、合理的であるか④ 契約において予定された業務以外に従事する必要がないか⑤労務提供に代替性があるか⑥ 報酬の算定方法が結果にともなう内容であるか⑦欠勤時に報酬が控除されるか⑧機械、器具、原材料などの負担をしているか⑨服務規律の遵守が求められていないか⑩専属性が強くないか例えば、これから紹介する裁判例(東京地裁令和2年3月25日判決)は、右記の諸要素に則した判断に基づき、業務委託契約が実質的に労働契約と判断された事例です。この裁判例における判断の具体的な内容は、以下の通りです。まず、諾否の自由がなく、会社からの指示のもと業務を行い、進捗の確認を受けるなどの指揮監督関係が認められ、タイムカードの打刻を求められるなど、ほかの社員と同様の拘束を受けていたなど、①〜③までの要素が考慮されました。次に、任された業務を自由に第三者へ代替させることが困難であったこと、月額報酬が成果に連動せず固定であり毎年源泉徴収票を発行して「給料」と呼称していたことなどから、⑤や⑥の要素や労働契約との類似性が加味されています。源泉徴収票の記載などはシステムに起因して表記が変更できないこともあり得ますが、手書きで修正して直すなどの工夫が必要でしょう。さらに、利用するパソコンなども会社が準備し、交通費の支給が行われており、ほかの会社からの依頼を受けることがなく専属性が否定できないことなど、⑧や⑩の要素も考慮した結果、実質的には労働者であると判断されました。上記の①から⑩の要素が常にすべて考慮されるわけではなく、事案に応じて特徴的な要素をふまえて総合的な判断がされることになりますが、労働契約からの切り替えにあたって、従前の働き方から大きく変更することなく、指示命令を継続し、専属性が維持されるといった状態には注意しなければならず、支給する対価などについても給与とは異なる体系をとるなど、労働契約との相違が明確になるよう留意しておく必要があります。仮に、業務委託契約への切り替えが希望者の意向通りであったとしても、労働契約としての要素が強い場合には、労働契約の解雇と同視されることになり、解雇権濫用法理により労働者が保護されることになる可能性があります。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

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