エルダー2022年4月号
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エルダー49ていた廣瀬さんが、ベッドから現場を管理しようとしてもまったくできなかったことだ。だれかに任せるということをせず、工場の全工程を一人で組んでいたが、入院した途端にそれが止まり、「次は何をすればよいですか?」というメールが大量に届く事態になった。これをベッドの上から次々に処理し続けたという。「療養が2週間だけでしたから、なんとかなりましたが、これが1カ月間続いていたらどうなっていたかと、怖くなりました」と廣瀬さん。仕事に復帰してからはこの経験を活かし、情報共有のために同じ仕事を2人以上ができる環境を整え、同じスキルを持つ人を複数育成できるように、配置転換で仕事を覚えるという流れをつくった。これは現在の同社における人材育成の基本姿勢でもある。廣瀬さんは現在、普段の生活には支障がないところまで回復している。「がんとわかったときに投げやりになっていたら、ここまではできないと思います」と、治療を後押ししてくれた会社に深く感謝している。活き活きと働いている中高年社員は会社の強力な広告塔「廣瀬さんは病気をしてから、少し調子が悪そうな部下に、すぐに気がついて声をかけるよい上司になりました」と語るのは大川さんだ。「男性も女性も育児や介護という人生のステージを乗り越えきれずに、退職を余儀なくされることがあります。しかしそのとき、経営者から、『家庭が一番大切』といわれたら、『やっぱりこの会社で働き続けたい!』とモチベーションが上がります」と大川さん。ところが制度があっても、活用できないケースもあるとも指摘する。「利用してあたり前という会社と、使いづらい雰囲気の会社では大きく違います。習熟したスキルを持つ人ができるだけ働き続けられるように、という姿勢や企業文化は、特に中小企業には必要だと思います」と強調する。病気とともに働ける会社は、高齢になっても働ける会社でもある。同社は定年後再雇用で一年ごとの更新だが、継続雇用の上限年齢はなく、定年時の退職者はほとんどいない。「現在も常勤で75歳の方、顧問として78歳の方が活躍してくれています」という二九社長は、病気があっても、高齢者でも、働きがいのある仕事を創出することが社会貢献につながると考えている。「活き活きと働いている中高年従業員が、何よりも強力な広告塔になってくれています」と、二九社長は会心の笑顔だ。病気とともに働く(写真左から)大川智司専務執行役員、二九良三代表取締役社長、廣瀬正典執行役員二九精密機械工業株式会社の両立支援策会社の慶弔見舞金規定により、入院や手術の際、入院給付金を1日5千円、入院中に手術を受けたときには手術給付金として10万円の給付金を会社から支給する残された部下などへの細やかな業務配分や情報共有によって、特定の従業員だけに過大な負荷がかかり、業務が滞ってしまうことを防ぐ年間5日間、法定の有給休暇にプラスして取得できる。誕生日や結婚記念日など個人のメモリアルデーなどにあわせて、会社に申告すれば休める制度体調が回復するまでの短時間勤務や、通院や治療のために休みを取りやすい雰囲気づくりを全社的に行っている入院手術見舞金制度現場へのヒアリングなどによる業務分担見直し復帰支援メモリアル休日

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