エルダー2022年4月号
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2022.462畳縁を縫いつける「平刺し」。10cm以上ある長い針を2寸(約6cm)の厚さの畳に通すため、なかに鉄板の入った「手当て」をつけて手のひらで針を押す一続きの模様として見えるように製作しているためだ(63頁右下写真参照)。こうした手縫い作業の高度な技術などが評価され、松本さんは2020(令和2)年度の「卓越した技能者(現代の名工)」(厚生労働省)に選定された。畳工として50年近い経験を持つ松本さんは、一般住宅の畳はもちろんのこと、寺社などで用いられる有ゆう職そく畳だたみも手がける。現在では機械で製作されることが多い畳だが、有職畳のように手作業が求められる仕事も少なくない。その代表的なものが、八重畳の製作でも発揮された、畳縁の模様を合わせる技術である。例えば、寺院の本堂の畳などは、隣り合う畳縁の紋がずれないように仕上げることが求められる。そのために、縁の位置決めの際に、縁に用いる絹製の生地に、霧吹きで水をかけて縮めたり、引っ張って伸ばしたりしながら調整を行う。また、畳に縁を縫いつける「平刺し」という作業では、縁を裏にして下紙と一緒に縫って折り返すが、縁の模様を見ながら縫うことができないため、縁を正しい位置につけるには経験と勘が求められる。「以前、お寺に畳を納めたときに、一カ所だけ柄が合わないところがあったんです。御住職は『それほど気にならないから、構わない』といってくれたのですが、自分が納得できず、持ち帰って直して、翌朝に納めました」こうした職人としてのこだわりは、使う材料にも表れる。仕入れている畳表は、丈が長い一番草のなかでも、さらに端が七目以上の長さがあるものを指定している。草の丈が長いほど仕上がりがきれいなためだ。満足できる畳をつくり上げたときの達成感と、お客さまに感謝し細部にまで妥協しないのが職人としてのこだわり「妥協せず、見えない部分まできれいに仕上げるのが職人としてのこだわり。仕上がりに納得できないと、後々まで悔いが残ります」

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