エルダー2022年4月号
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エルダー63その恩返しの思いもあり、現在は畳マイスターや埼玉県で職業訓練指導員として、後進の指導にも積極的に取り組んでいる。また、県内の小学校を回る、畳づくりの体験教室の講師も務めており、子どもたちに平刺しを体験させている。畳のない家庭が増えているなか、伝統文化を子どもたちに伝える貴重な機会となっている。「子どもたちは、初めは興味なさそうですが、畳ができ上がったときには『世界に一つしかないんだよ』といいながら、目をキラキラさせて喜んでいますよ」技術を教えることだけでなく、自身の腕を磨くことにも余念がない。冒頭で紹介した厚畳と八重畳は、その上に「龍りゅう鬢びん」という畳表と「茵しとね」という座布団を置くことで御神座が完成する。その二つを仕上げるのが目下の目標だ。有限会社松本製作所TEL:0480(42)7287https://tatami-m.com/(撮影・福田栄夫/取材・増田忠英)てもらえたときの喜びが、この仕事の醍醐味だという。代表を務める有限会社松本製作所は、松本さんが生まれた昭和33(1958)年に松本さんの父親が創業。宮内庁御用達の事業所などに畳床を納めており、大勢の畳職人が出入りしていた。「中学生のころ、父が交通事故に遭ったんです。当時は畳床を1日100枚つくっていたので、母一人ではたいへんだということで、嫌々家業に就きました。でも、職人さんたちの仕事を見るのが好きで、次第に自分もそうなれたらいいなと思うようになりました」先輩の職人たちが、包丁の研ぎ方から始まり、畳づくりの技を惜しみなく教えてくれたことが、この道を究めたいと思うきっかけになったという。畳づくりの伝統を子どもたちにも伝える八重畳の繧繝縁。八つ重ねた縁が一続きの模様に見える(提供:松本製作所)寺院の本堂に納品した畳。二つの畳縁の紋合わせが見事(提供:松本製作所)畳製作に用いる道具の数々。使いやすさを求めて手づくりすることもある御神座に用いる絹織物の繧うん繝げん縁べりは、最も格の高い畳縁さまざまな種類の畳表を見本として取り揃える仕入れた畳表は暗所で保管。湿度にも気を配る vol.318

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