エルダー2022年5月号
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2022.58については、個人差が大きいことも重要なポイントです。①視覚機能の変化高齢者が日常的に感じる視覚に関する問題として、以前と比較して「暗い場所で物が見えにくい」、「物がぼやけて見える」、「細かい文字が見えにくい」などがよくあげられます。これは、暗いところにおいても瞳孔が開かなくなり光量を得られないことや、ピント調節をになう水晶体の濁り、ピント調節機能の低下などが原因です。この加齢による機能低下は回復が見込めないため、視覚環境を調整することにより対応することが必要です。(対策例)明るさを確保するために、照明の増設、屋根の採光増設、照度の強い懐中電灯の採用を行う。また、室内や通路の照度の変化を少なくする。②聴覚機能の低下聴覚機能は、加齢とともに高音域から聞きとりにくくなる傾向がみられ、特に2000Hz以上の高い音が聞き取りにくくなります。また、さまざまな音が入り混じることで、重要な警告音が聞こえなくなります。作業においては、聞き返す煩わずらわしさなどからコミュニケーション不全が起こり、作業ミスや事故の要因となり得ます。聴覚機能の低下は、聴覚に関与する細胞数の減少・機能低下などが原因とされ、視覚機能と同様に機能回復がむずかしい症状です。よって、職場での聴覚環境の整備と、個人の対策として補聴器の導入も検討されます。(対策例)高音域が苦手なのでやや低めの音程の警報音(アラーム)の導入、背景騒音を減らす、警告をパトランプなど視覚に訴えるものに代える。③認知機能の変化高齢者の認知機能の特徴としては、「新たな知識を得る」、「急な変化に柔軟に対応する」といった流動性知能の低下が目立ちます。その一方で、「結晶性知能」と呼ばれるものについては若年者よりも優れているといわれています。これは、物事への理解や判断力、トラブルへの対応力など経験に基づいた知恵のことであり、経験に基づいた能力は、生涯にわたり発揮されるようです。④骨粗しょう症加齢にともないさまざまな疾病のリスクが上がりますが、そのなかでも骨粗しょう症は、転倒災害などで骨折を引き起こすリスクとなります。骨粗しょう症は現在約1300万人の患者がいると推定され、その8割を女性が占めているとされています。骨粗しょう症が進むと、運動器障害による移動能力の低下(ロコモティブシンドローム)や骨折、体の虚弱化により生活の質の低下が起こるため、高齢になっても働き続けるためには、栄養指導や薬物療法などでその進行を抑えることが重要です。また、職場においては転倒災害を防ぐための環境改善が求められます。「エイジフレンドリーガイドライン」に則った安心・安全な職場づくり42020年3月、厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を策定しました。このガイドラインは、主に事業者と労働者に求められる取組みを具体的に示したもので、安心・安全な職場づくりの指標となるものです。事業者に求められる事項は左記になります。■安全衛生管理体制の確立等(1)安全衛生管理体制の確立等・経営トップ自らが安全衛生方針を表明し、担当する組織や担当者を指定するとともに、高齢労働者の身体機能の低下などによる労働災害についてリスクアセスメントを実施する(2)職場環境の改善・照度の確保、段差の解消、身体機能の低下を補う設備・装置の導入などのハード面の対策・勤務形態などの工夫、ゆとりのある作業スピー

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