エルダー2022年5月号
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エルダー11特集生涯現役時代の安心・安全な職場とは?はじめに1山奥の人里離れた不便な場所に、ポツンと一軒で暮らしている方々を訪ねるテレビ番組が人気だそうです。出演者の多くがご高齢なのですが、畑を耕したり、納屋をつくったり、自宅を増改築するなど、画面のなかのみなさんが若々しくパワフルであることに毎回驚かされます。とはいえ、いつまでも若いときの身体機能を保持できる人はいませんし、老化はだれにでもやってくるのが現実です。老化の特徴として、体温調節機能、バランス能力、筋力(特に下肢)、俊敏性、柔軟性、疲労回復力、視力、聴力、記憶力、判断力などの低下があげられます。その結果、高齢者は転倒しやすくなったり、熱中症になりやすくなったりと、若年層より被災するリスクも高くなります。2020(令和2)年の「労働者死傷病報告」(厚生労働省)によると、30〜34歳の労働災害年千人率※は女性が1・02、男性は2・05となっています。一方で65〜69歳では女性は4・04、男性は3・94ですので、高齢者と若年層の被災者を比較すると女性は4倍、男性でも約2倍も高いことがわかります。本稿では高齢者に特有の労働災害とその防止方法をハード対策(職場環境改善)とソフト対策(作業環境管理)の両面からご紹介します。「転倒」予防のポイント2加齢により筋力が低下したり股関節の動きが悪くなると、足が上がりにくくなったり、バランスを崩しやすくなります。また、瞬発力や柔軟性なども衰えるため、ちょっとした段差でも転倒しやすくなります。さらに、高齢者は視力や明暗の差への対応力が低下します。映画館のように暗い部屋に入った瞬間、目の前が真っ暗になりますよね。この状態は時間が経つにつれて目が慣れてくるのですが、慣れるまでの時間が高齢者では長くかかり、その結果、倉庫やバックヤードなど暗い場所に入った後、足元がよく見えずに転倒することがあります。転倒防止のポイントは、つまずきや滑りの原因、明暗の差をなくすことです。(1)転倒予防のためのハード対策段差はつまずきの原因になるので、スロープを設置して段差を解消したり、段差はできるだけ小さくします。階段は傾斜をゆるやかにし、手すりや踏み面に滑り止めを設置します。滑り止めは階段にかぎらず、滑りやすい床や通路に高齢者が安全に働ける職場環境改善と作業環境管理中央労働災害防止協会 安全衛生マネジメントシステム審査センター 所長 斉藤信吾解説1※  年千人率……1年間の労働者1000人あたりに発生した死傷者数の割合を示すもの

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