エルダー2022年5月号
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特集生涯現役時代の安心・安全な職場とは?エルダー13齢者に合わせて調整するとよいでしょう。社会福祉施設における労働災害では、腰痛と転倒が大きな割合を占めています。厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、「人力での抱え上げは、原則行わせない。リフトなど福祉機器の活用を促す」ことが明示されています。介護職場では老若を問わず福祉機器の利用が推奨されているのですが、人手不足もあり人力による利用者(被介護者)の抱え上げは多くの施設で行われているようです。リフト、スタンディングマシーン、電動昇降ベッドなど福祉機器の使用は、腰部への負担が大幅に軽減するので活用するようにしてください。また、これらの機器は使用についての安全教育を実施することが必要です。(2)腰痛予防のためのソフト対策パワーアシストスーツは重量物の持ち上げ・下げの際にかかる作業者の身体的負担を軽減する目的で開発された商品で、「パワードスーツ」、「アシストスーツ」とも呼ばれています。モーターや空気圧を動力とするタイプや、動力を用いず高反発ゴムや特殊なバネを利用するタイプもあります。形状、重量、アシスト力、サイズ、原理、価格もさまざまで、IoT機能を有している商品もあるようです。パワーアシストスーツは腰部への負担が軽減される一方で、高齢者にとっては着用すること自体が負担になることもあるので、本人の意見も尊重するようにしてください。レンタル商品もあるので、導入前に試行するのもよいでしょう。腰部に過度な負担のかかる重量物の運搬については、例えば20㎏の荷物であれば5㎏ずつ4分割にするなど、一つあたりの重量を軽減します。さらに、重量だけでなく、作業回数も減らすようにします。運搬作業も複数の高齢者で行うようにすれば、腰部への負担を低減することが可能になります。また疲労回復のため、身体を横にして伸ばすことができる休憩場所を設置することも望まれます。休憩時間は体力の回復を期待するものですが、高齢者は体力の回復にも時間を要することに留意してください。腰痛の発生が多い社会福祉施設では、摩擦が少なく滑りやすい素材でできたスライディングシートを、利用者の体を移動・移乗するために使用します。摩擦が少ないのであまり力を使わずに移動介助を行うことができます。「熱中症」予防のポイント4消防庁の統計によると、2021年5〜9月に熱中症で救急搬送された人は全国で約4・8万人おり、そのうち56・3%が65歳以上の高齢者だったそうです。高齢者は体温の調整機能や暑さを感じる機能が低下しており、熱中症を発症しやすいことが知られています。また、体力低下、低栄養などによる虚弱状態に陥っていると、熱中症になった際の回復力が弱いため、すぐに対処しなければ重症化のリスクがあります。高齢になると暑さや喉の渇きを自覚しづらいことが増えます。そのため一般的には暑いと感じるほど高温の職場でも、暑さに気づかず熱中症になることもあります。この2年間、新型コロナウイルス感染症対策として私たちは日常的にマスクを着用していますが、マスクを着用したまま長時間作業を続けると心肺機能への影響によって間接的に熱中症を引き起こす可能性も否定できないそうです。したがって高齢者の熱中症対策は、より積極的に実施する必要があります。(1)熱中症予防のためのハード対策近年は、IoT機器が熱中症対策に用いられています。心拍数や体温を計測するセンサーを内蔵したウェアラブルデバイスを作業者に装着してもらい、作業場の温湿度、作業強度などから熱中症のリスクを把握するものです。熱中症リスクが高くなった場合は、管理者や作業者本人にメッセージが届くので熱中症を予防するこ

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