エルダー2022年5月号
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エルダー19特集生涯現役時代の安心・安全な職場とは?両立支援をめぐる現状1わが国の少子高齢化のスピードはすさまじく、2010(平成22)年にすでに人口はピークを迎え、急速な労働力人口不足が不安視されています。「日本の将来推計人口」によると、2050年には労働生産年齢人口1・4人で高齢者1人を支えなければならないと推計されています。2016年の働き方改革実現会議において労働力人口の減少を防ぐべく、「1億総活躍社会」を目ざす取組みが提案され閣議決定されました。この動きと前後して、2016年2月に厚生労働省労働基準局、健康局、職業安定局により「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(2019年3月から「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」に改称、以下、「ガイドライン」)」が発出されました。患者さんの視点に立った場合、近年の医療の進歩は目覚ましく、全がんの相対5年生存率は66・9%となり長期生存が望め就業継続をしやすい環境となっています。しかしながら、がん治療を受ける患者さんはさまざまな就業継続に関する困難を感じてしまうようです。そこで、当事者(患者であり労働者)が治療と仕事を「両立」することができるよう、医療機関、社会、地域の関係者(ステークホルダー)が「支援」することを、「両立支援」といいます。厚生労働省が策定しているがん対策推進基本計画では、第2期(2012年)から就労がテーマとして取り上げられることになりました。四つの痛み(トータルペイン)※1のうち、経済的苦痛を解放することを目ざし両立支援のさまざまな取組みが進んでいます。高齢労働者の両立支援の特徴2高齢労働者の就労上の特徴は、熟練した技術と作業を粘り強く続けることができるという長所と、加齢による身体機能の低下と病気に罹患しやすく・重症化しやすいという短所があります。本稿では特に病気という視点について理解を深めたいと思います。高年齢者雇用安定法の改正があり、就業機会の確保が65歳から70歳になりました(努力義務)。多くの病気は、年齢を重ねれば重ねるほど発症率が上昇します。5歳の就業期間の延長ですが、この期間に発生する病気はかなり多くなります。ここでは、いくつかのデータから高齢労働者の病気の特徴をみ生涯現役時代の治療と仕事の両立支援産業医科大学 産業生態科学研究所 災害産業保健センター 立石清一郎解説3※1 四つの痛み(トータルペイン)…… 身体的苦痛、心理的苦痛、社会的(経済的)苦痛、スピリチュアルな苦痛(生きる意味や目的など)

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