エルダー2022年5月号
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特集生涯現役時代の安心・安全な職場とは?エルダー21で、従業員ががんに罹患した場合の職場での対応について事前に決めておくことが必要になります。新型コロナウイルス感染症の流行5新型コロナウイルス感染症の流行により、両立支援はいくつかの状況の変化が生まれました。有利に働いている部分は、これまで多くの企業で消極的であった在宅勤務が一気に進んだことにあります。通勤ラッシュは感染のリスクが高く、抗がん剤治療中の人は通勤に困難がありました。また、大腸がんで人工肛門(ストーマ)を着用している人はトイレ利用のむずかしさなどもありました。しかしコロナ禍により在宅勤務が推進され、通勤に付随する問題で就業がむずかしい人にとっては働きやすい環境になりました。さらに、疲労感などから適宜休憩をしたい場合など、これまで、出勤が前提であったときに存在した問題が在宅勤務になったことでより柔軟な対応ができる余地が広がりました。一方で、出勤せざるを得ない業種の労働者が、抗がん剤などを使用している場合は新型コロナウイルスに感染しやすかったり重症化しやすかったりするため、事業者が安全配慮義務違反をおそれ、主治医が「問題ない」といっているケースであっても出勤を認めないということがありました。本来であれば、医療機関の担当者と相談を行ったうえでリスク評価した結果、出勤回避の可能性を検討することが求められるはずですが、病気があると働くことができないと事業者が決めつけることが散見されています。事業場における新型コロナウイルス感染症対策は、医療従事者以外の担当者が決めることが多くなり、そのこと自体はまったく問題ないのですが、個別の労働者の判断は医師が行うことが原則です。したがって、本人のみならず、医療機関とのていねいなコミュニケーションが必要です。「抗がん剤治療中の人は出勤できない」といった一様なルールを決めることは疾患差別であり、人によって違うということを念頭に置いたうえで、オーダーメイドの対応をすることが必要であるといえるでしょう。診療報酬改定6これまで、事業者と医療機関が文書のやり取りをする場合においては、特段の決まりがなく、医療機関では事業者から両立支援にかかる情報提供依頼を受けた場合には、任意の書式で診断書を発行することが多かったと思います。2018年度から、両立支援の診療報酬として、「療養・就労両立支援指導料」が新設されました。以前のルールは、がん患者の働き方について職場からの依頼に応じて医療機関が産業医あてに主治医の意見書(通常の診断書ではなく働き方に関連する助言が記載された文書)を作成し、産業医からの返事を医療機関が受けて治療方針を検討した場合に算定されるルールでした。この方法では、①産業医が不在(従業員50人未満)の場合診療報酬が得られない、②産業医から返事があって治療方針を検討したタイミングで診療報酬を算定しても、患者はどのような医療に対する報酬であるのかわかりにくい、といった問題がありました。このような問題点を解決するために、2020(令和2)年度から診療報酬改訂が行われました。本人と事業者が共同で作成した勤務情報提供書をもとに、医療機関が産業医等に対し意見書を作成した段階で診療報酬として8000円(患者は3割負担の2400円)が得られるようになりました。多くの患者は高額療養費の対象となっており、自己負担がないことも比較的多く存在すると考えられます。さらに、対象疾患ががんのほか慢性肝疾患・脳卒中・指定難病が加わったこと、「産業医等」とは10人以上の企業で選任義務のある安全衛生推進者が加わったことなどから、診療報酬の間口はずいぶ

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