エルダー2022年5月号
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2022.522ん広がりました。しかしながら2018年度の155件から、2020年度の約400件(推計値)とそれほど算定件数は増えていません。この理由として、医療機関らのヒアリングでは、「勤務情報提供書を事業者が提供していない」という問題点が指摘されています。作成は多くの場合、10分程度で終了すると考えられます。勤務情報提供書は事業者と医療機関の情報共有の第一歩です。両立支援の検討について事業情報を提供することなく医療機関に一方的に委ねている現状です。ですから、職場が勤務情報提供書を確実に提供する状況になることが期待されています。なお、2022年からは上記疾患に加え、糖尿病、心疾患、若年性認知症の場合、医療機関で診療報酬が認められることになりました。これらの疾患を抱える労働者の支援のときには特に医療機関との連携を深めるよう工夫をしてください。傷病手当金の通算化72022年1月1日から、傷病手当金※2の不支給期間と支給期間は別でカウントされることとなり、同じ病気やけがにつき通算で1年6カ月間の支給が認められるようになりました。これは、がん患者など病状の消退をくり返す患者にとって朗報です。これまでは、不支給期間がどれだけ長くても、初回算定から1年6カ月が経過した場合、支給されず収入が閉ざされるという問題がありました。これは、企業の休職制度とも不整合がありました。企業の休職制度は多くの場合、休んだ期間のみカウントされます。例えば、白血病などはくり返し抗がん剤を使用することが必要となります。12カ月で職場復帰した場合、20カ月で再発し休職に入ったとしても、傷病手当金は支給されないことになります。このような、長期間にわたる両立支援の場合、戦略的に休職と傷病手当金を利用することが可能となります。また、半日勤務などで復帰した場合、給与をもらうよりも傷病手当金の方が有利であることが多く、その際本人は休職をうながされていました。こういったケースで、長期間にわたる疾患群の場合には、職場に戻れるときにはできるだけ戻るという選択をすると、休職も傷病手当金も消化せず、より長い期間両立支援の制度を受けることが可能となります。この制度改定により、両立支援を行うときに、支援者は病気の性質についておおよそのスケジュール感をイメージしながら支援することで、より最適な両立支援につながることになります。そのときどきの症状に応じた対応という支援の方策から、長期的な職業生活全般を含めた支援のあり方を検討することが必要になったといえ、より一層医療機関との連携を深めることが、労働者一人ひとりを大事にすることにつながるようになりました。おわりに8高齢者の両立支援は若年者に行うものと基本的には変わりがありません。しかしながら、病気に対して若年者より脆弱性があることは否めません。また、体力・病状・意欲など個人差が大きく、一律にこのように対応したほうがよいというマニュアルをつくることは困難です。高齢者の両立支援を上手に行うための重要な要素は、医療機関との連携です。よい関係性をつくり、働きやすい環境をつくることで、多くの高齢労働者が活躍できる環境をつくり出すことは可能です。もちろん、高齢労働者が働きやすいということは若年者にとっても働きやすい負担の少ない環境になります。労働者の定着の点からも、無理なく安全に働くことができる環境整備が求められています。※2  傷病手当金……病気やけがによる休業中に被保険者とその家族の生活を保持するための制度

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