エルダー2022年5月号
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特集生涯現役時代の安心・安全な職場とは?エルダー33えて導入したものです。残念なことにその方は急逝しましたが、在宅勤務という新しい働き方をもたらしてくれました。その後、治療目的だけでなく、子どもの不登校など事情を抱えた人や、介護休暇とあわせて在宅勤務を希望した人が続きました」(齋藤センター長)治療をしながら働き続けるために職場でできる六つの配慮齋藤センター長には忘れられない光景がある。2013年にステージ4の脳腫瘍が見つかった社員がおり、その人は治療しながら働き続けることを強く願った。「働き方をいろいろ工夫しながら、余命宣告後3年間永らえることができました。息子さんから、『父が松下産業の社員でよかった』と告げられたとき、この仕事をやっていてよかったと心から思いました。当社では病気になった社員が、自分の病気を発信する機会があります。この社員もあるセミナーで講演する予定でしたが、叶いませんでした。本人が発信し、それを職場の仲間が『明日は我が身』と受けとめます。病気でも働ける制度はもちろん必要ですが、職場で自然に受け入れる風土こそ大切だと私は思います」と言葉に力が込もる。同社では、がんに罹患して離職した社員はおらず、現在も6人の社員ががんの治療を行いながら家族や会社、仲間たちに支えられ勤務し続けている。両立支援の内容を具体的に紹介する。①まず直接、本人・家族と話す病気や入院などの報告が入ると、センターのスタッフが自宅や病院に駆けつけ、本人や家族の要望・希望をヒアリングし、今後の業務体制などを社内で検討する。②主治医・産業医・専門家との連携社員が職場復帰にあたって主治医と面談するとき、産業医にも同席してもらう。産業医は産業医活動を通じて社員と顔見知りであることも安心感を与える。職場巡視などを通じて、会社の業務内容に詳しい産業医が、本人と主治医との間に立つことで、勤務形態を考えるサポートができる。また、産業医のフォロー役として産業保健師が健康指導や禁煙指導などにあたっている。さらにがん相談支援センターなどの各種専門家との連携を図る。③治療を支える家族もサポート社員の家族の職場訪問を受けつける「ファミリーデー」を開催し、治療を支える家族との交流を実施。家族が抱えている悩みなどにも耳を傾ける。④社内制度・公的支援の周知・病気の理解促進社内制度としては在宅勤務制度や柔軟な勤務体制を整備している。35歳および40歳以上の社員には人間ドックを実施しており、がんのオプション検査も会社が全額負担している。また、家族との対話から浮かび上がってきた問題として生計維持があったことから、会社としてGLTD(団体長期障害所得補償保険)に加入。休職中やリハビリ中の所得補償に取り組んでいる。病気の理解促進の面では、本人の同意を得て、社内イントラネットや社内報に闘病記を掲載している。治療と仕事の両立が可能であるこファミリーデーの様子。治療を支える家族とのコミュニケーションの機会を持つことも重要となる(写真提供:株式会社松下産業)

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