エルダー2022年5月号
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2022.534とが周知されるため、病気と診断されても即離職につながっていない。⑤日ごろの情報収集とニーズの把握社員の状況について日ごろから情報収集を行っている。年2回行っている賞与面談(個人面談)の機会を利用し、個人ニーズを把握して、一人ひとりにあった働き方を模索していく。なお、面談の相手を逆指名できるのも面談の充実につながっている。⑥会社とのつながり、やりがいを感じてもらう職場復帰する社員からの手紙やメッセージを共有することで、会社とのつながり、仕事に対するやりがいをともに感じることができるよう取り組んでいる。以上の六つの職場支援について、松下社長は「人にかかわることをワンストップで行う部門としてHRCの存在は大きいと思います。当初は、ワーク・ライフ・バランスの実現が視野にありましたが、いまは治療と仕事の両立を図るために大いに力を発揮しています。産業医との連携もスムーズで、当社の産業医は、不明な点は『わからない』といって、専門家と連携して対応してくれています。また、四つ目にあげたGLTDは給与の約4割を保証してくれるすぐれた制度です。65歳までが対象で、保険料が月額約1500円というのもありがたいです。4割を保証されればほかの公的制度とあわせて、何とか生活の目途も立ちます。人間ドックも、毎年、産業医に相談して、効果的かつ必要最小限の検査項目を選定していますので、GLTDの保険料と合わせても一人4000円あれば手厚いサポートが可能です。トップがその気になってほかで節約すれば実現できます」と力強い。だれもが活躍できる職場環境の構築を目ざして同社には、『四方よし』という経営理念がある。これはお客さま、会社、社会の三者が『よし』になる近江商人がいうところの『三方よし』に、協力会社を加えた『四方よし』に進化させたものである。この『四方よし』の仕事を進めるためには、社員の幸せがベースになければならない。だからこそ、同社は職場の雰囲気向上や社員間・家族の交流を目的としたファミリーデーの実施などを通して、社員のプライベートの充実にも力を注いでいる。同社の治療と仕事の両立のための職場支援に対する評価は年ごとに高まり、2014年に東京都「がん患者の治療と仕事の両立への優良な取組を行う企業」中小企業部門で優良賞を受賞したほか、厚生労働省「がん対策推進企業アクション推進パートナー企業」の登録を受け、がんに関する最新情報を随時、社内に通知している。2020年には、日本対がん協会の「朝日がん大賞」を受賞した。それでも松下社長は「何も特別なことはしていません」と強調する。特別なのではなく、すべては自然体ということであり、これこそ同社に根づいている社風なのだろう。発想が豊かで自由、かつ温かいまなざしの持ち主である松下社長とともに歩んできた齋藤センター長は、今後の展望について、「HRCを必要とされた社員の方には、その存在価値を知ってもらえたという自負がありますが、そうではない人たちにどれほどその価値を知ってもらえているか多少の不安はあります。HRCの課題を私一人でになうのではなく、次の世代につなげる組織にしたいという思いもあります。HRCのスタッフの一人は60代の男性で、その豊富な人生経験を頼りにしています。ただ、人手が足りないため、『スタッフ募集中です』とアピールさせてください」と話す。最後に松下社長は「社員の1割を占める60歳超の社員たちは、仕事をコツコツ行ってくれており、その背中を追うことができる若い社員は幸せだと思います。年齢や性別に関係なく、あるいは闘病中の人も含めて、だれもが活き活きと活躍できる会社づくりを、これからも目ざしていきます」と語ってくれた。

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