エルダー2022年5月号
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エルダー35FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫味噌汁は「幸せのスープ」味噌汁で「幸せホルモン」日本人の主食であるご飯に、ぴったりと寄り添っているのが味噌汁。大豆の成分を麹菌で発酵させた味噌をもとに、野菜などがたっぷり入った食べるスープです。大豆に含まれている約35%のタンパク質は、発酵によってアミノ酸に分解されていますから、消化と吸収率のよいアンチエイジングスープといえるでしょう。老化防止にはタンパク質が欠かせません。このすばらしいスープを食事ごとにとってきた日本人は、いまや世界のトップクラスの長寿民族。人生100年時代を支える健康上の大きな柱です。味噌のアミノ酸のなかでも特に注目されるのが、グルタミン酸とトリプトファン。グルタミン酸は、化学調味料の原料にもなっているほどのうま味成分で、味噌汁のうまさのもとになっています。同時に、脳の老化を防ぐ働きにも役に立っています。重要なのは必須アミノ酸のトリプトファン。「幸せホルモン」と呼ばれる脳内物質のセロトニンの原料でもあります。多幸感をもたらすのもセロトニンで、落ち込んだ心を励ますと同時に、心をおだやかにする神経伝達物質です。ダシのよく利いた味噌汁をとると、なんとなく幸せな気分で心が満たされるのも、トリプトファン効果かもしれません。ダシに使われているカツオ節には、和食食材のなかでもトップクラスの量のトリプトファンが含まれており、味噌汁は日本人にとって「幸せのスープ」なのです。美肌効果と若返り作用昔、味噌汁づくりの上手なおばあちゃんたちはよく、「実の三種は身の薬」と胸を張っていっては、ニッコリしていました。野菜、海藻、キノコ、豆腐、油揚げ、魚のつみれ、魚のあら、ときには豚肉など、昔は具だくさんの味噌汁が多かったので、幸せホルモンの原料だけではなく、ほかのアミノ酸やビタミン、ミネラル、食物繊維などもたくさん摂れ、きわめて健康効果の高い食べ物だったのです。味噌には、美肌効果や若返りの作用で知られるビタミンB類の仲間であるナイアシンも含まれています。また、発酵食品の味噌には乳酸菌や麹菌も多く含まれ、腸の活性化にも役立っています。343

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