エルダー2022年5月号
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2022.536[第114回] 鎌倉(というか東国)女性の気負いについては、その代表として、前々回、北条政子を紹介した。彼女は政治家だ。そこで今回は男への愛一筋に生き抜いたひたむきな鎌倉娘を二人ご紹介したい。巴ともえと静しずかだ。 巴は木き曽そ義よし仲なかとは乳兄妹だった。父の中なか原はら兼かね遠とおは、義仲の父源義賢が、甥おいの源義平(源義朝の子)に敗れて孤児となった義仲を根拠地の木き曾そ谷だににかくまった。巴は一緒に育った。気持ちは複雑だった。 世せ間けん態ていは兄妹だ。が内実は恋人だ(特に巴が)。この処理を巴は、 「男になろう」 という意志に定めて振り切った。特に、 「義仲のように強い男になろう」 と。義仲が得意とする武芸を片端から身につけた。剣・槍・特に弓。義仲のあらゆるものを液化して自分のなかに注ぎ込んだ。義仲と一身同体化をはかったのだ。 木曽川の岩に咲いた黒ユリのようなものだ。岩に生まれ岩に育つ。野生以外ない。しかし、そのなかで義仲への思いだけはたしかだ。それを巴は数々の平家との合戦で示す。義仲に示す。秘めた思いは義仲だけにわかればいい。その点、巴の思いはいじらしい。義仲への黒ユリの思い

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