エルダー2022年5月号
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④多様性を活かす⑤仕事に精神的な意味を見出す⑥ 個人の転機(transition)と組織の変革にうまく対処するハンセンの理論は、男性中心、仕事中心的発想で、精神性について考えなかった従来のキャリア理論からみると新鮮なものでした。女性や民族、LGBTQだけでなく、シニアにも目を向けており、④の多様性には、高齢労働者も含まれています。彼女は、著書※1のなかで、多様性に関して、「現在、特に差別をされているのが高齢労働者である」と書いています。米国には、年齢差別禁止法があっても、不当に解雇されて裁判に訴え、勝訴した話や、再訓練する価値のない人間とみなされ、機会を与えられない、などといった例があること、その一方で、高齢労働者が有益であることを認識している会社が出てきたこと、などが記載されています。米国には年齢差別禁止法はあるものの、解雇規制が緩やかです。それに対して、日本には定年制があるものの、事実上定年年齢やさらにそのうえの65歳までの雇用が確保されています。法制度は異なりますが、共通する問題があることについては、考えさせられるところです。イバラ〜暫定自己(可能な自己を探る)4サビカス、ハンセンでもみたように、世の中の変化が激しくなるなかで、それにどう適応していくのかは、年齢を問わず、キャリアについて考えるうえで大きな課題となっています。働く期間が延びたことから、これにも対応していくことが必要となりました。このような状況下では、これまでよりも長い視点でキャリアについて考え、常にキャリアを変化させ続けることが求められそうです。また、ときにはキャリアを大きく変化させるようなことが必要になってくることもあるでしょう。こうした視点でキャリアの問題について探究している研究者のひとりに、組織行動学者のハーミニア・イバラがいます。彼女は、その著書※2で、「なりたい自分」に向けて、「可能な自己を探り、それを試し、大きな変化のための土台をつくる、そのうえで、また、可能な自己を探る、というサイクルを回し続けることが必要だ」といっています(図表2)。「可能な自己を探る」というのは、どうなりたいか自分に問いかけたり、可能性のあることをリストアップしたりするようなことです。彼女は、別の論文※3で「暫定自己(Provisional Selves)」という言葉を使っています。「可能性のある自己のなかから、仮の暫定自己を選び出し、それを試しながら、大きな変化のための土台をしっかりつくっていく、これをくり返すことによって、新たなアイデンティティを獲得することができる」というのです。彼女は、「アイデンティティは不変のものでなく、多くの可能な自己からなるものだ」、「キャリアを変えることは、アイデンティティを変えることだが、別のものに取り替えてしまうものではなく、再※1 Hansen, L, S.(1997)※2 Ibarra, H.(2003)※3 Ibarra, H.(1999)2022.544図表2 アイデンティティの変遷出典: Ibarra, H.(2003). Working Identity.Garvard Business Review Press.Kindle版〔Kindleの位置 No.2428〕可能な自己を探るどうなりたいか自分に問いかける、可能性をリストアップする などアイデンティティの過渡期可能性のあるアイデンティティをためす など大きな変化のための土台づくり成果:なりたい自分になるアイデンティティの実践

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