エルダー2022年5月号
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構築するものだ」ともいっています。また、再構築にあたっては、「小さな規模で試し、新しいネットワークをつくって仲間を見つけ、自分のストーリーをつくり直すのがよい」としています。さらに、問いかけ続けること、取り組み続けることの重要性についても指摘しています。キャリアについて考える際は、「これまで」をふり返ったうえで、自分が積み重ねてきたものをどう意味づけするかを考えることが多いように思われますが、「可能な自己を探る」というのは、「これから」を考えることといえます。また、続けることの重要性は、より長い期間、キャリアについて考えることともつながります。先にあげたイバラの書籍では、主にミドルのキャリア・チェンジが扱われており、特にシニアのキャリアについて検討しているというわけではありません。しかし、世の中の変化が激しくなるなかで、今後、これまでよりもずっと長い期間、ミドル期以降も「これから」を考え続けていくことを考えると、大いに考えさせられるものがあります。クランボルツ〜計画された偶発性5誌面の関係もあり、ここではあまり多くの理論を取り上げることはできませんが、ジョン・D・クランボルツにも触れておきたいと思います。クランボルツは、1999年に、「計画された偶発性(プランドハプンスタンス理論〈Planned Happenstance Theory〉)※4」を提唱しました。「予期せぬ出来事がキャリアの機会に結びつく」という理論です。彼は、予期せぬ出来事によってキャリアが決定されるが、偶発的な出来事を自らの主体性や努力によってキャリアを最大限に活用していくことを強調しています。クランボルツは、「『偶然の出来事』を『計画された偶発性』とするためには、①好奇心、②持続性、③柔軟性、④楽観性、⑤冒険心の五つのスキルが必要である」としています。すなわち、「好奇心を持って努力し続け、フレキシブルに考えたり行動したりし、物事を楽観的にとらえ、ときにはリスクを取って行動することが必要だ」というのです。この背景には、変化のスピードが速まり、将来起こることが見通せなくなってきたということがあります。ヒトは学習し、行動を変化させることができる存在です。従来の行動を変化させたり、新しい行動を獲得したりすることによって、変化し続ける環境に対応することができるという考え方は、変化の激しい現代においてキャリアの問題に直面している人々に勇気を与えるものだといえるでしょう。◇  ◇  ◇ここまでいろいろ見てきましたが、連載も残すところあと1回となりました。シニア期になってもキャリアは発達するということ、変化に対応し続けなければいけないことはわかりました。さらに、キャリアをとらえるための考え方などについても学びました。では、これをふまえて実際にどうすればよいのでしょうか。最終回ではそれを考えたいと思います。【引用・参考文献】● Hansen,L,S.(1997). Intergrative Life Planning:Critical Tasks for Career Development and Changing Life Patterns, Wiley.(サニー・S・ハンセン著、平木典子、今野能志、平和俊、横山哲夫監訳、乙須敏紀訳(2013)『キャリア開発と統合的ライフ・プランニング‒不確実な今を生きる六つの重要課題』福村出版)● Ibarra, H. (1999). Provisional selves:Experimenting with image and identity in professional adaptation. Administrative science quarterly, 44 (4), 764-791.● Ibarra, H. (2003). Working identity: Unconventional strategies for reinventing your career. Harvard Business Press.● Krumboltz J.D. & Levin Al S.(2004). Luck is no accident:making the most of happenstance in your life and career. Impact Publishers(J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン著、花田光世、大木紀子、宮地夕紀子訳(2005)『その幸運は偶然ではないんです!:夢の仕事をつかむ心の練習問題』ダイヤモンド社)● Savickas M. L.(2011). Career Counseling, American Psychological Association(マーク・L・サビカス著、日本キャリア開発研究センター監訳 乙須敏紀訳(2015)『サビカス キャリア・カウンセリング理論:〈自己構成〉によるライフデザインアプローチ』福村出版)● Savickas, M. L.(2013). Career construction theory and practice. In Brown,S.D. & Lent,R.W. (Eds.), Career Development and Counseling:Putting Theory and Research to Work, NJ:John Wiley & Sons. 147-183.※4 商標登録の関係で、クランボルツは、「Planned happenstance」ではなく、「Luck is no accident theory」と呼んでいたエルダー45シニアのキャリアを理解する

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