エルダー2022年5月号
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配置転換に関する判断基準1使用者において、複数の事業場が存在したり、部署が複数存在する場合は、転勤や配置転換を命じる根拠として労働契約または就業規則があれば、労働者との労働契約において職種や職場の限定がなされていないかぎり、使用者は労働者に対して、配転命令を行うことができると考えられています。しかしながら、使用者による配転命令について、最高裁判例により一定の制限がなされており、①業務上の必要性が存しない場合または②業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるときもしくは③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなどには、当該転勤命令は権利の濫用にあたる(最高裁判所昭和61年7月14日判決、東亜ペイント事件)と考えられています。今回の質問からすれば、復職後の雇用を維持するためには、配置転換が必要であると考えられ、配転命令が退職意思をうながすためなどの隠れた動機・目的がないとすれば、労働者にとって、通常甘受すべき不利益といえるかどうかが問題となると考えられます。この点については、かつては、使用者の裁量の余地は大きく、通常甘受すべき不利益を著しく超えると認められることは限定的でしたが、労働契約法第3条3項において、「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めるなど、ワーク・ライフ・バランスの維持を意図した条文が定められており、労働者の地位を保護するために引用されることも増えているように思われます。休職からの復職時の配転命令の留意点2配置転換が有効に行えるとしても、安全配慮義務の観点からその行使を控えるべき場合もあります。厚生労働省が、精神障害に関する労災認定の基準として公表している「心理的負荷による精神障害の認定基準について」では、配置転換が心理的負荷の要因となることが示されており、その心理的負荷の程度は「中」程度とされています。これは、単独では精神障害を発症させることにつながるほどではありませんが、複数の要因が重なったときには精神障害との関連性が肯定されることがあるというものです。また、「過去に経験した業務と全く異なる質の業務に従事するこ復職時の主治医の意見をふまえることが重要であり、配置転換の必要性も高度に求められるため、慎重に検討する必要があります。また、十分な判断材料を得ることなく配置転換を命じると、安全配慮義務違反を問われて、損害賠償責任を負担することもあります。Aメンタルヘルス不調者の職場復帰にあたり、配置転換を考えていますが、注意すべきことがあれば知りたいメンタルヘルス不調をきたして、休職中の従業員がいます。復職のめどが立ってきたのですが、長期間の休職であったことから、休職前の職種には人員を補充ずみであり、元の職種に戻すことができません。また、医師の診断書によっても、当初は短時間勤務が望ましいとされるなど、一定の制限が必要になることからも元の職種に戻すことがむずかしくなっています。配置転換を行ったうえで、雇用を継続しようと思っているのですが、問題があるでしょうか。Q22022.548

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