エルダー2022年5月号
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エルダー51開始当初からずっと変わっていません」と中村部長は強調する。この制度における自身の役割について深井看護師は「支援対象者と医師、会社という3者を橋渡しすること」だと考えている。診断書に書かれた病名を一つとっても、支援対象者にも人事担当にもわからないことが多い。そのため、診断書の内容をわかりやすく説明し、その病気がどういうものなのかを理解できるように話す。ときには主治医にどう質問すればよいのかまでをアドバイスし、当事者間の相互理解が進むように専門職として役割を発揮してきた。また、対象者本人が自身の病気についてよりよく知ることの重要性も訴える。「いまの時代、働き方や生き方が多様化しているので、離職後も含めて、ご自身の人生についてしっかりと考えていただき、それを理解したうえで対応する必要があります。支援制度は『会社が用意してくれるもの』ではなく、いちばん大切なのは『自分の病気について自分で語れること』なのです」と深井看護師。例えば、「私はこういう病名です。こういう治療を受けています。できること、できないことはこれです」と自分で説明できるぐらいに理解してもらう。そのうえで、できる仕事を照合していけば、より納得できる支援策を講じることができるからだ。ステップをふみながら進める復職支援制度復職判定会議で状態を慎重に見極める実際に復職への面談を担当している佐野課長は、「この復職支援制度は休職期間を利用して、段階的にステップアップすることに特色があります」と語る。例えば1週目は半日から、少しずつ就労時間を増やしていって、5日間フルで働ける体力が回復したことを確認しながら地道に復職していくのだ。対象者からは担当した佐野課長に対して「安心した」、「こういう制度があってよかった」という声が届くという。一方、自身もこの制度の対象者として復職支援を担当している馬場さんは「対象者の代弁者となることで役に立ちたい」と話す。面談の際には経験者の立場から「こういう状況でこういう治療をしているから、こういう配慮が必要ですよ」と具体的に説明することで安心感を与えていきたいと考えている。2020年9月に直腸がんが発見された古矢さん(58歳)も支援対象者の一人だ。手術・入院と自宅療養ののち、2カ月間の復職支援を経て、翌年8月に職場復帰を果たした。両立支援担当者からの「徐々に慣らしていったほうがよい」とのアドバイスに従い、少しずつ段階をふんで、自分の体調と相談しながら職場復帰した古矢さんは、「時間はかかりましたが、身体的にはすごく楽に復帰できました。今後も大好きな現場でずっと仕事を続けていきたいです」と意気込みを語る。職場復帰への見極めは1カ月に1度の復職判定会議で、主治医からの情報提供依頼書を元に進捗状況などを確認し、ステップアップするかどうかを審議していく。その責任者である中村部長は、「ときには重い判断をしなければならないこともありますが、支援終了者がたくさん増えると嬉しいですね」とやりがいを語る。同生協の両立支援に関する今後の取組みについて深井看護師は、「支援以前に『とにかく病気にさせない』ことが重要だととらえ、健康診断の事後措置を徹底的に行っています。もちろん、支援制度によって復職につなげることができれば『大病を患っても職場に戻れるんだ』という希望にもなるのですが、それ以前に『病気にならない』というところにエネルギーをかけていく方が重要だと考えます」と語る。中村部長も「たしかに、本当に嬉しいのはたまに訪れる『対象者ゼロ』という期間です。これは担当全員の実感ですので、制度適用者がゼロであり続けることが、この制度の究極の到達点ではないかと思います」と、さらに大きな目標を目ざしている。病気とともに働く

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