エルダー2022年5月号
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2022.54ないとすぐに孤立し絶望しかねません。従来のプライドやモチベーションを支えていた社名や肩書きなどの、自分のなかの古いルールから脱皮し、喜びと働きがいを第一に考えてほしいと思います。―著書のなかで「終身キャリア自律支援」を提唱されています。その考え方についてお聞かせください。前川 日本の企業経営においては、「雇用を守ることが大切」という考え方が根強いのですが、産業構造や働く人たちのキャリアの見直しも迫られるなか、私は「雇用を守ること」を絶対的美徳にしないほうがよいと考えています。雇用を守ることは終身雇用でリタイア後の年金生活まで保護し続けることですが、年金への不満や不安の声も聞こえてきます。しかも雇用が守られるのは正社員にかぎられていますし、いまや雇用労働者の4割は非正規雇用です。また雇用が重視されてきた結果、実質的な仕事がない社内失業者である「雇用保蔵者」は400万人を超えるとの推計※2もあります。いまの時代にマッチしたスキルを身につけられず、働きがいや成長も期待できず、組織内に留め置かれた状態にある人も多いのです。 終身雇用を信じていない若い世代も多く、会社がどうなるかわからないので自分の力で生きていけるようにスキルを身につけ、キャリアを積みたいという人が増えています。私は企業が本当に人を大切にしたいのであれば、終身雇用ではなく、会社を離れても通用する人材に育て上げることが重要だと考えます。会社経営が揺らいだり、どんな状況になっても、社員が生きられるようにするのです。それが「終身キャリア自律支援」です。社員一人ひとりが生涯にわたってキャリア自律できるように育成・支援し、一定の知識とスキルを身につけたプロフェッショナルとして育て上げる仕組みを整備する必要があります。改正高年齢者雇用安定法には選択肢に業務委託契約による就業も入っていますが、自社以外からも仕事を受注できる専門性やスキルを身につけるには、早い時期から1社に依存しないキャリア自律の意識を持たせ、自発的なスキル形成をうながす支援が必要です。―デジタル化の進展や働く価値観の変化など、この激動の時代に社員の働きがいを高めていくにはどうすればよいでしょうか。前川 従来のような会社の指示・命令による配置や仕事の与え方など強権的な人事は通用しないことを認識すべきでしょう。社員を会社の歯車としてヒト・モノ・カネと同列に扱うのではなく、本人の意思と思いを尊重し、それをいかに活かしていくかを考える経営を目ざすべきです。いわば、最近のキーワードである「人的資本経営」です。ミドルやシニアのキャリアについては家庭の事情などさまざまな考え方があり、会社の方向性と完全に合致しないかもしれませんが、一致する範囲でお互いが納得できる役割を一緒に見いだしていくのです。こうした対等な関係づくりが働きがいを高めることにつながります。個々の意思を尊重し、成長できる環境が人材を集め、魅力的な機会を提供し続けられることが企業の成長にもつながるのではないでしょうか。終身雇用にこだわらない若手世代も増加一つの会社に依存しないキャリア自律を(聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師前川孝雄さん※2 リクルートワークス研究所『2025年ー働くを再発明する時代がやってくる』(2015年)

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