エルダー2022年5月号
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2022.562「荒川マイスター」である宮田さんを紹介した荒川区役所内の展示コーナー。左はマスクに多様な隈取りを施したもの。右は実際の隈取りを写し取ったもの日本舞踊家の公演の顔づくりや、その指導などにもたずさわってきた。その功績が認められ、2013(平成25)年に東京都荒川区の「荒川マイスター」、2020(令和2)年には東京都の「東京マイスター」に認定されている。顔師は、公演がある会場の楽屋へ赴き、出演者に次々と化粧を施していく。多い日は20〜30人に施すこともある。一人あたりの化粧時間は20分前後。かぎられた時間のなかで、「眉つぶし(眉を平らに塗りつぶす)」、「下地(顔や首など白おし粉ろいを塗る部分にすき油を塗り込む)」、「下塗り(白粉を塗り乾かす)」、「ぼかし(おでこや頰などにピンク白粉を塗り乾かす)」、「仕上げ(眉、目張り、口紅などを入れる)」を行う。出演者の役柄を理解し、それに合わせた化粧を施すのはもちろんのこと、舞台の照明のあたり方にも気を配る。例えば、下からの照明がない舞台では、より白っぽく描くなどの工夫が求められる。さらに、顔の形は千差万別のため、出演者が目の前に座ったときに、どのような化粧がよいかを瞬時に判断する必要がある。その見極めに経験の差が出るという。「駆け出しのころは、電車に乗ると、女性の顔を見る癖がついていました。この人だったらどう描いたらよいだろう、と考えるんです。じっと見過ぎて、怪しい人に思われたこともあります(笑)」白粉も、ただ白く塗ればよいわけではない。例えば頰のこけている人であれば、ピンクに染めて頰がふっくらして見えるようにする。「筆使いにも経験の差が出ます。例えば眉を描くとき、上手な人は一筆で一気に描きます。その方が、立たち役やく(男役)の場合は勢いが出ます。経験の浅い人は微調整し約20分の間に、出演者にふさわしい化粧を施す「かぎられた時間のなかで、顔の特徴を瞬時に判断して舞台映えする化粧を施すことが求められます。その見極めに経験の差が現れます」

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