エルダー2022年6月号
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2022.612パーソル総合研究所では、そうした「変化に応じて自ら変わる力」を、〈変化適応力〉として定量的に測定しました。〈変化適応力〉を正確にいうならば、仕事や組織・ビジネスに変化が起きたとしても自分は適応していけるとする自己効力感(self–efficacy)です。こうした自己効力感が人の行動や感情に与える影響を広く提起したのは、カナダの心理学者アルバート・バンデューラです。中高年も、変化への自己効力感が欠如すると、適応行動や、学び直しへの意思を持つことがむずかしくなります。こうした概念を精査する際には、ほかの概念との比較が重要です。われわれが比較したのは、「社内活躍」への自己効力感。いまいる会社や組織のなかで、「中心的な役割をになえるだろう」、「昇進できるだろう」といった社内地位に関するポジティブな見込みです。つまり、いまいる組織に対して「内向き」の効力感と、組織の外も含んだ「外向き」の効力感である〈変化適応力〉を比較検証してみたということです。そうすると、性別や年齢、企業属性などの影響を取り除いても、〈変化適応力〉のほうがパフォーマンスや学習行動などと強いプラスの関係が見られました。さらに、図表1に示したように〈変化適応力〉のパフォーマンスへの影響は、加齢にともなって強くなる様子が見られましたが、「社内活躍」への見込みは逆にパフォーマンスへの影響が弱くなっていました。どんなマネジメントが︿変化適応力﹀を上げるのかわれわれの研究では、この〈変化適応力〉を「促進」する心理と、逆に「抑制」する心理もそれぞれ明らかになっています。促進心理の一つ目は、自分なりの目標を見つけて進んでいく「目標達成の志向性」。二つ目の促進心理は、トライ・アンド・エラーをくり返していく「新しいことへの挑戦や学びへの意欲」。三つ目は、自分自身の興味関心の範囲を決めつけないという「興味の柔軟性」です。逆に、変化適応力とマイナスの関係にあった心理には、いまのままの延長上のキャリアでよいという「現状維持志向」や、時代への「取り残され感」、「経験・能力への不安」などがあります。こうした背景心理と企業の人材マネジメントの関係を詳細に分析すると、以下のようなことが発見できました。誌面の関係で要点だけ紹介しましょう。① 社内の職務ポジションがオープンになっていること、組織目標と個人目標が関連づけられていること、公募型異動を経験していることが﹁目標達成志向﹂とプラスの関係にある。② シニアへの教育研修の支援の手厚さは、促進心理全般にプラスの関係にある。まず、これらの要素が、〈変化適応力〉にポジティブに関与する要素でした。中高年向けの教育訓練はどの企業も手薄ですが、やはりきちんと効果を発揮しているようです。逆に、ネガティブに影響していたのは以下のような要素です。③ 専門性の尊重は、﹁現状維持志向﹂を助長している。④ 終身雇用的人事管理は、﹁興味の柔軟性﹂を抑制している。.000.100.500.400.300.20020代(n=1,000)30代(n=1,000)60代(n=1,171)50代(n=1,829)40代(n=1,000)変化適応力の影響社内活躍見込みの影響パフォーマンスに対する影響度(標準化偏回帰係数)出典:株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年)図表1 個人パフォーマンスに与える影響度合い

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