エルダー2022年6月号
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特集ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは?エルダー13これらもおもしろい結果です。90年代ごろから専門性の高い職群を「エキスパート職群」や「専門職群」などと分ける複線型の人事制度を多くの企業が取り入れました。しかし、専門性を尊重しすぎると従業員に「いまのままでよい」と思わせる側面もあるということです。また、安定雇用は人から興味の広がりを奪うような影響も見て取れます。これらは人材マネジメントにおいて「いいとこ取り」ができないことを端的に示しています。「変わらない」という中高年最大の問題の背景に、〈変化適応力〉やそこに影響する心理があり、それらに組織の人材マネジメントのあり方が作用していることを見てきました。逆にいえば中高年の「変わらなさ」は、組織マネジメントのあり方によって「変えられる」ということです。対話型ジョブ・マッチングシステムの要点とはでは、シニア問題を構造的に解決したい企業は、どのような方向に舵を切るべきなのでしょうか。筆者がこれから必要だと考えているのは、従業員との「対話」をベースにした社内のジョブ・マッチング機能の拡充です。短く「対話型ジョブ・マッチングシステム」と呼んでいます。従業員とのキャリアについての対話と思考の機会を増やし、社内公募や社内留職などを通じてキャリア志向性と具体的ポジションをマッチングさせていくシステムです(図表2)。こうしたシステムの各要素は特に大手企業であれば多くの企業に存在します。しかし、全体が有機的に機能している企業は少数です。筆者は、こうしたシステムを機能させるポイントは、①対話の機会拡充、②事業部の巻き込み、③グランド・デザインの描出だと考えています。まず、多くの企業は社内公募などのマッチング機能が形骸化してしまっています。その主な要因は、そもそも手をあげてまで主体的にキャリアを築こうとする従業員マインドへの仕掛けが不十分であることです。一般的なキャリアの言説では、「Will(やりたいこと)」、「Can(できること)」、「Must(すべきこと)」を重ね合わせることがしばしば語られますが、実際ほとんどのケースで問題になるのは従業員の「そもそものWillのなさ」。優秀で意識の高い従業員はどの会社にも少数いますが、それ以外の多くの従業員は「やりたいこと」のような主体的な意思を持ちません。この問題への処方箋こそが、①の「対話」です。先ほどの分析では〈変化適応力〉が高い人の特徴は、他者とのキャリアについての「対話」の経験が豊かであることもわかりました。さらに、「だれと話すのか」、「どのように相談するのか」も検証したところ、「上司」や「仕事関連の友人・知人」、「キャリア・コンサルタント」との対話、キャリアについて自己開示しながら「客観的な意見をもらう」経験が、変化適応力と紐ひもづいていました。「公募に人が集まらない」と嘆なげく企業の多くはこうしたキャリア的観点の対話を現場にまか外部労働市場雇用の境界タレント・マネジメント・システムキャリアについての「対話機会」(研修・カウンセリング)社内公募システム副業・留職マッチング学び直し支援外部市場グループ会社出向転職募集応募募集参照応募社外副業カムバック採用公募型異動留職社内副業異動再雇用後配置転換事業部出典:株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年)図表2 対話型ジョブ・マッチングシステムの構築

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