エルダー2022年6月号
16/68

2022.614せきりですが、現場の上司は目の前の目標達成に追われ、キャリアの話などは後回し。特にその傾向は、ミドル・シニアといった中高年の部下に対して顕著です。社内外のカウンセリング機能やその他研修機会などを会社側が提供しなければ、何も先には進みません。次に、②「事業部サイドの巻き込み」が必要です。具体的なポストを公募するためには仕事の切り出しと役割の明確化、そして処遇の透明性を高くすることが必要で、それら諸条件を具体的に記述する必要があります。事業部サイドが職務情報の整備や公募として切り出せるだけの情報の公開、そこに応募するための経験やスキル要件を明らかにする、「キャリアパスの見える化」が必要になります。「現場から公募がでない」、「求める条件が曖昧」な状況では、いくら制度があってもそれは有名無実化します。三つ目は、③「全体のグランド・デザインを描くこと」です。企業内でこうした仕掛けを整備するためには、事業部との交渉や経営陣とのすり合わせが必須になります。「研修の企画・調整」を行っているような教育担当部署だけでは完結しません。実際に業務を切り出して公募をかけたり、上司面談を行うのは、現場の事業部ですし、経営陣は従業員のキャリア開発への関心が薄いこともしばしばあります。そうした社内議論のときにこそ、各制度を個別に調整するのではなく、「なんのために行うのか」という人材マネジメントの「グランド・デザイン=全体の青写真」が必要になります。企業はどう動いているのか「対話型ジョブ・マッチング」は筆者の造語ですが、すでに先進的な企業では同根の発想で施策が進められています。例えば、ソニーグループはもともと社内公募の伝統が長く、社内兼務、社内FAのマッチング制度もありますが、さらに数年前からは「Sony Career Link」という社内マッチング・プラットフォームを整備しています。経歴を登録しておくと、必要としている部署からスカウトされる仕組みです。また、キャリア研修やその後のメンタリングなどの「対話」の仕掛けを厚く整備していることも特徴的です。また、住友林業株式会社は2017(平成29)年から定年後再雇用の希望者が事業部の公募職種を探して応募する「かいかつWeb」という仕組みを整備しています。2018年には、再雇用期間を満了した66歳以上の社員と、年齢にかかわらず離職した元社員を対象に、人材と社内部署をマッチングさせる「シニア人財バンクセンター」制度を開始しています。シニアに特化したタイプの社内マッチング・システムの例として注目しています。30年続ける「外部労働市場頼み」をやめようミドル・シニアの問題解決は、解雇規制とセットで語られがちです。中高年に対して代謝を促進し外部労働市場を志向する「40歳定年制」のような声はバブル崩壊後、しばしば唱えられます。しかし、それは中高年のマネジメント問題を組織代謝という一要素の話に矮小化しています。変革するべきは、「外に出られない」中高年を再生産し続けている内部労働市場=社内の労働環境のあり方です。キャリアについて考えさせず、対話の場を節約し、企業主導で配転させ続けながら、同年代による昇進レースを10年以上続けることで、従業員の〈変化適応力〉は低下します。対話をベースにしたマッチング・システムは、「企業主導」の人材配置から「個人主導」のキャリアへの単純な移行ではありません。先ほど述べた通り、「個人主導」にすらできない、「そもそものWillのなさ」が根本問題だからです。シニア課題をきっかけとして企業の人事管理のあり方を変えていく、本稿がそのためのヒントに少しでもなれば幸いです。

元のページ  ../index.html#16

このブックを見る