エルダー2022年6月号
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特集ビジネスの最前線で輝く高齢者の力とは?エルダー17きさ、数など、その範囲内なら正常、超えたら異常というもの。基準を「1時間に1個つくる」にすると、「2時間に1個」しかつくれていなければ異常ということになる。顧客の現場では基準がないことが多いが、あったとしても、トヨタのようには「人」の流れや「物」の流れが見えないことがほとんどだという。問題の多くは、現場に「物」が雑然と置かれていることに起因する。まずはいらない物を捨てたうえで(整理)、いる物の置き場・置く数などを決めていく(整頓)。整理をすると物が減ってスペースができ、例えば、スーパーのバックヤードでカニ歩きをしないと通れなかった、といったような状況が改善される。さらに、整頓をする際に台車や人が通るところを決めると、人とモノが明確に分かれ、目に見えて状況が改善していく。「常に台車が通るのを気にして仕事をしていたのが気にならなくなって、ラクになった」と顧客は喜ぶそうだ。現場にスペースができるので不要な気遣いなく仕事ができるようになり、必要な物だけあるので物を探さなくてよくなる。スムーズに作業ができるようになることで、安全・品質・生産性など、幅広い点が改善される。一度「基準」の必要性を示したうえで、同様にほかの基準もつくっていくうちに、物や人が流れるようになっていき、現場が改善されていく。それにともない顧客の現場も人も見違えるように変わる。この一連の流れを経験したトレーナーは、達成感・充足感から、この仕事に「ハマる」そうだ。その様子を森戸専務は、「無類のやりがいを得て、さらに顧客の要望に応えているうちに、いつの間にか70歳を超えており、そのまま働き続ける人がほとんどです」と笑顔で話す。「多くのトレーナーが、当初は『70歳までを目処に働きたい』と口にしますが、お客さまから『来年もよろしく』といわれて、その次の年も続けていくのです。『自分は求められている』という実感が原動力になっているのでしょう。また、『年寄り扱いしない』ことも重要です」と、トレーナーが70歳を超えても活躍している秘訣を語る。トヨタと研修での学びを活かし準備を怠らない姿勢で現場に挑む現場指導のベースになるのはトヨタ式の普遍的な原理・原則であるが、顧客に合わせて「翻訳」をする必要がある。同社のトレーナーが、各業界の顧客に合わせて応用するスキルも、トヨタ時代に養われたものだ。「トヨタは教育に力を入れている会社であり、技能系人材については、入社後およそ5年、7年、10年、15年の昇格前のタイミングで教育の場を設けています。講師は現場の管理監督者が務め、例えば、組立て工程の組長が講師を務める場合、塗装、溶接、機械などさまざまな領域から集められた後輩たちを指導することになります。組立て工程の組長は、組立て工程以外の専門性は低いので、専門性以外の観点から彼らに教えられることは何かから考えなくてはなりません。テーマが『問題解決』であれば、問題が発生している場所に行き、発生しているときと発生していないときの違いに目をつけて、なぜその場所で問題が起こっているのかということを、何度も検討して真の原因を見つけます。真の原因に対して適切な処置を施せば、二度と同じ問題は起こりません。このような考え方の〝型〟が、どこの職務でも通じるということを、当社のトレーナーは経験しているので、当社に来てから、別の業種に応用することができるのです」(森戸専務)もちろん、入社してすぐにトレーナーとして活躍できるわけではない。「トレーナーには、トヨタ時代に行っていたマネジメント業務はないので、顧客指導に専念できます。しかしながら、これまで車づくり一筋の方たちですから、『サービスを売る』という経験はありません。新しい仕事に就くことは

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