エルダー2022年6月号
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れることが確認されています。アラン・S・カウフマンは、WウェイスAIS–Rアール※1という成人知能検査の結果を用いて、動作的IQは、30歳以降低下し続けるのに対し、言語的IQは、その後も長く維持され、そののち緩やかに低下することを明らかにしています。動作的IQは、処理速度などで測定できる知能、言語的IQは、言葉理解力などで測定できる知能です。さらに、カウフマンは、知能が教育年数によって影響を受けることから、教育レベルを調整した分析(各年齢層における学歴別の人数割合を合わせた分析)を行い、言語的IQは、むしろミドル期、シニア期にあたる年齢層の者の方が高いことや、その後の低下幅が小さいことを明らかにしました(図表1・2)。新たなものを生み出す創造性についてはどうでしょうか。イノベーション理論を提唱したヨーゼフ・A・シュンペーターは、「『新しい知』は『既存の知と、別の既存の知の新しい組み合わせ』によって生み出される」と述べています。創造性に関しても、多くの研究がなされており、たくさん知っていればよい、といったものではありませんが、多くのことを知っていることは、創造性を発揮するうえで、プラスになる可能性があります。シニアの創造性については、別の研究もあります。アメリカの心理学者であるディーン・K・サイモントンは、クラシックの作曲家の作品を分析し、シニア期にも創造性のピークがあると主張しました。そして、これは、死を意識するようになることによるものではないかと考え、ヨーロッパでは白鳥は死ぬときに美しい声で鳴くといわれていることから、これを「スワンソング現象」と名づけました。「シニアになっても、言語理解力などは長く維持されるし、創造性を発揮できる可能性がある」といわれても、「本当かな?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。図表1・2をよく見ると、年齢別の学歴割合をコントロールしている方に比べ、コントロールしていない方では、言語的IQも年齢とともに低下しています。また、サイモントンは作曲家を研究対象としていますが、作曲家の方は、すぐれた曲をつくるために努力し続けている、ちょっと特別な人たちのように思われます。かつてに比べ、教育水準が上がってきている※1 WAIS-R……Revised form of the WAIS(Wechsler Adult Intelligence Scale)のこと。1981年に開発された。対象年齢は16~74歳。現時点でのWAISの最新版は、2008年に開発されたWAIS-Ⅳであるエルダー35図表1 動作的IQに対する加齢の影響出典:Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13(3), p.245およびp.247図表2 言語的IQに対する加齢の影響出典:Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13(3), p.245およびp.24720-2470-74(年齢)65-6955-6445-5435-4425-34教育レベル調整なし教育レベル調整あり7580859095100105動作的IQ101.175.678.884.289.293.398.9101.898.995.078.782.489.892.420-2470-74(年齢)95.689.591.092.695.194.598.496.598.497.297.698.699.899.465-6955-6445-5435-4425-34教育レベル調整なし教育レベル調整あり7580859095100105言語的IQシニアのキャリアを理解する

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