エルダー2022年6月号
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ことを考えると、今後、より長く能力が維持されることが期待できそうですが、世の中の変化の速度は増しています。変化に対応するために努力し続けることも求められそうです。シニアと学び3シニアにかぎらず、社会人の学び直しが必要だといわれるようになってから、かなりの年月になります。「年齢と学び」については、いくつもの調査結果があります。厚生労働省の能力開発基本調査を見ると、Off–JT、自己啓発とも、過去一年にこれを受講したり、実施した労働者の割合は、年齢とともに低下しています(図表3)。高齢労働者の訓練などへの参加率が低い理由について、マテオ・ピッキオというイタリアの経済学者は、経済的な理由、態度的な理由、制度的な理由があると指摘しています※2。経済的な理由というのは、学んでもそれを活用できる期間が短いということです。シニアにとっても、企業にとっても、学んだことによるコスト(時間、費用、労力など)を回収できない可能性が高い、ということです。さらに、高齢労働者と若年労働者が職業に関する訓練を一緒に受けた場合、高齢労働者は若年労働者に比べて、時間もかかり、成績もいまひとつ、といった調査結果もあります※3。労働者から見ると、学んだことによって収入が上がることが期待しづらいということもあります。態度的な理由というのは、いわゆるバイアス※4のことです。「シニアはパソコンが苦手」、「シニアは新しいことを学びたがらない」などと年齢によって決めつけてしまうことのほか、「先輩にいまからこれを学んでもらうのは申し訳ない」などと気を遣ってしまうようなこともこれにあたります。シニア自身が、知らず知らずのうちに、こういったバイアスの影響を受けていることもあります。制度的な理由というのは、シニアに合った訓練が用意されていない、シニアに合った方法で訓練がなされていない、などといったものです。これらのうち、学んだことを活用できる時間については、職業人生が延びたことによって、大いに延びました。70歳まで働いてもらうのであれば、50代半ばからでも15年あります。若手・中堅の転職可能性などを考えると、「シニアだから学んでもらってもウチの会社で活かせる期間が短い」とは一概にいえなくなっています。また、先ほど、一緒に訓練を受けた場合、高齢労働者は若年労働者に比べ、時間もかかり、成績もよくないなどと書きましたが、その一方で、講義に加えて、実際にやってみせる、参加させるなど複数の方法を用いたり、各人のペースで学んでもらったりするなど、やり方を工夫することによって、訓練効果を上げることができることもわかっています※5。学ぶ側からみるとどうでしょう。本格的な学びである大学などでの学び直しについていえば、遜色ないようです。文部科学省委託調査※6によると、学び直しへの満足度は年齢が高い層ほど高くなっています。また、筆者は、社会人大学院で教員を務めていますが、年齢が上の学※2 Picchio,M.(2015)  ※3 Kubeck,J.E.S(1996)  ※4 意識されているバイアスのほか、意識されていないバイアス(アンコンシャスバイアス)もある  ※5 Charness,N.,&Czaja,S.J.(2006)※6 文部科学省委託調査(2016)「社会人の大学等の学び直しの実態把握に関する調査研究」。年齢計(n=7484)では「良い」(60.9%)、「まあまあ良い」(33.3%)だが、50歳以上(n=1536)では「良い」(69.6%)、「まあまあ良い」(26.4%)となっている2022.636051015202530354045(%)20歳未満60歳以上50~59歳40~49歳30~39歳20~29歳自己啓発O-JT図表3 年齢階級別Off-JT受講者、自己啓発実施者の割合出典:厚生労働省「令和2年度能力開発基本調査」

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