エルダー2022年6月号
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生の理解度が低いと感じたことはありません。シニア期のキャリアのためにできること4︵1︶ 企業は~機会を提供する少子高齢化が進むなか、シニアにも戦力となってもらうことが不可欠です。定年延長など制度面の改善も進みつつありますが、それだけでは十分ではありません。シニアには、すでにできることがたくさんありますが、より長く活躍してもらうためには、シニアにも学ぶ機会やチャレンジングな経験をする機会を与えたり、次のキャリアに向けた支援を行ったりすることが求められます。さらに、シニアが実際に活躍している様子を、将来のシニアである若手・中堅に見せることも必要でしょう。わが国においては、年齢や勤続年数にともなって処遇が上がり、さらに、それによって生じる処遇と生産性のギャップを解消するために、役職定年や定年など年齢で一律に扱う、といった人事制度が一般的です。しかし、それではシニアの力を活用しにくいところがあります。より力を発揮できる選択肢も加えたうえで、シニアに対しどうしたいかたずねることが必要になってくると思われます。︵2︶働く側は~年齢をいい訳にしない「そうはいっても残り時間というものもあるではないか」といわれそうですが、締切があるからこそ仕事を完成させられる、ということは、だれもが経験するところです。家族を養う必要性が小さくなることで、働き方の選択肢が広がることなども考えられます。人生100年時代の新たな生き方を提案したリンダ・グラットン&アンドリュー・スコットは、「人生で様々な活動を経験する順序が多様化すれば、『エイジ』と『ステージ』がかならずしもイコールでなくなる」といっています。また、第5回で取り上げたイバラは、「変化の多いいまの時代は、考えてアイデンティティを探すのでなく、まず小さくやってみることが大事だ」といっています。日本人は、年相応を気にするところがあるようですが、年齢をいい訳にせず、まず小さなことから何か始めてみてはどうでしょうか。おわりに〜若手・中堅は明日のシニア〜5日本には、4月号で取り上げたエリクソン※7がいうところの「年齢より相当若く見える単なる年配者」がたくさんいます。医療人類学者のシャロン・R・カウフマンは、ヒアリング結果をもとに、高齢者の自己概念が若いままであることを報告しています※8。見かけだけでなく、気持ちも若いのです。ここまで、ずっとシニアを中心に話をして来ましたが、若手・中堅は「明日のシニア」です。シニア期のキャリアについて、企業も、シニアも、「明日のシニア」である若手・中堅の社員も、本気で考えてみてはどうでしょうか。※7 エリクソン……アメリカの発達心理学者。詳細は2022年4月号を参照※8 カウフマンは、「エイジレス・セルフ(年齢を重ねない自己)」と呼んだ【引用・参考文献】● Charness, N., & Czaja, S. J. (2006). Older Worker Training: What We Know and Don't Know.# 2006-22. AARP.● Gratton, L. & Scott, A. J. (2016). The 100-year Life : Living and working in an age of longevity. Bloomsbury Publishing.(池村千秋訳(2021)『LIFE SHIFT︱100年時代の人生戦略』東洋経済新報社)● Horn, J. L., & Cattell, R. B. (1967). Age differences in fluid and crystallized intelligence. Acta Psychologica, 26, 107-129.● Kaufman, A. S., Reynolds, C. R., & McLean, J. E. (1989). Age and WAIS-R intelligence in a national sample of adults in the 20-to 74-year age range: A cross-sectional analysis with educational level controlled. Intelligence, 13 (3), 235-253.● Kaufman, S. R. (1994). The ageless self: Sources of meaning in late life. Univ. of Wisconsin Press.● Kubeck, J. E., Delp, N. D., Haslett, T. K., & McDaniel, M. A. (1996). Does job-related training performance decline with age?. Psychology and aging, 11 (1), 92. ● 文部科学省委託調査(2016).『社会人の大学等の学び直しの実態把握に関する調査研究』● Picchio, M. (2015). Is training effective for older workers? Training programs that meet the learning needs of older workers can improve their employability. Iza World of Labor. ● Simonton, D. K. (1990). Creativity in the later years: Optimistic prospects for achievement. The Gerontologist, 30 (5), 626-631.エルダー37シニアのキャリアを理解する

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