エルダー2022年6月号
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ものが、高年齢者雇用安定法が求める継続雇用制度として許容されるのか判断された裁判例を紹介します(東京高裁令和元年10月24日判決)。事案の概要は、以下の通りです。バスの運営をしていた会社が、①継匠社員制度と②再雇用社員制度という二種類の制度を用意していました。①の制度は、バスの運転士としての業務を維持したうえで、賃金の減額について②よりも程度が小さく、勤務日数などについても変更がないというもの。②の制度は、車両の清掃業務に担当業務が変更となり、賃金は時間給に変更され、賞与の金額も10万円に固定されるというものです。また、①の制度に基づき継匠社員として採用されるためには、解雇事由などに該当しないことや、直近5回の昇給および昇進評価においてC評価(全体の下位10%程度)に該当しなかったことなどが要件とされており、希望者全員が継匠社員になれるという制度ではありませんでした。一方、②の制度については、解雇事由または退職事由に該当することが明らかである場合を除き、全員が再雇用社員として有期労働契約を締結するという制度になっていました。ある労働者が60歳で定年退職となるにあたり、継匠社員としての採用を希望しましたが、過去の5回の昇給および昇進評価においてC評価が3回以上あったことを理由に、継匠社員としての雇用契約の締結が拒絶され、再雇用社員として採用されました。そこで、当該労働者は、継匠社員制度が、高年齢者雇用安定法が定める継続雇用制度の要件を充足しておらず、過去の昇給および昇進評価に基づき定年後の再雇用が拒絶されることが違法となると主張して、訴訟を提起しました。裁判所は、「継続雇用制度は、現に雇用している高年齢者のうち就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く。)に該当する者を除く希望者全員をその定年後も引き続いて雇用することを内容とするものでなければならないものと解されるが、継匠社員制度は、継匠社員制度選択要件が定められており、現に雇用している高年齢者のうち就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する者を除く希望者全員をその定年後も引き続いて雇用することを内容とするものではなく、同項所定の継続雇用制度の内容に合致するものではない」と判断し、①継匠社員制度は、高年齢者雇用安定法の定める継続雇用制度ではないと判断しました。一見すると、会社が高年齢者雇用安定法違反を問われるような不利な判断がなされたようにも見えますが、本件のポイントは、二種類の制度が用意されていたという点にあります。続けて、裁判所は、②再雇用社員制度については、高年齢者雇用安定法が定める継続雇用制度にあたらないとはいえないと判断しており、これにより同法を遵守しているものと判断されています。ただし、②再雇用社員制度が同法に定める継続雇用制度として認められたとしても、賃金の低下の程度や業務内容の大幅な変更がある点については、問題になる余地があります。これらの労働条件の変更についても、合理的な裁量として許容される範囲で提示される必要があり、裁量を逸脱すると違法と判断されることがあるからです。この点については、この裁判例では、まず、C評価が全体の下位10%程度にすぎないことに加えて、乗務員の圧倒的多数を組合員とする労働組合との度重なる労使交渉を経て成立したものであることを重視して、賃金および業務内容の大幅な変更をともなう継続雇用制度を適法なものとして許容しています。これまで紹介した裁判例においては、賃金や業務内容の大幅な変更をともなう場合には、実質的には「継続」した雇用ではなく、通常解雇と新規採用の複合行為というほかないと判断し、当該変更を提示することが違法とされたものがありますが(名古屋高裁平成28年9月28日判決)、今回紹介した事件のポイントは、労使交渉により、労使がともに高年齢者雇用安定法の趣旨をふまえ、二種類の定年後の再雇用制度を検討したうえで、継続雇用制度を構築したという点にあると考えられます。エルダー39知っておきたい労働法AA&&Q

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