エルダー2022年6月号
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(東京地裁平成14年10月22日判決、ヒロセ電機事件)。しかしながら、中途採用時の年俸が高額かつ役職を与えられた状態であった場合であっても、募集時において経験不問との記載があり、オフ・ザ・ジョブトレーニングが完備されていることなどをふまえて、一定期間稼働して求められる能力や適格性を平均的に達することが求められているものというべきと判断された例もあり(東京地裁平成12年4月26日判決、プラウドフットジャパン事件・第一審)、管理職や高度専門職として認定されるためには、募集時の要望や採用前の説明内容なども重要とされていることには注意が必要です。とはいえ、管理職や高度専門職となることはあくまでも例外であることから、一般的には、業務改善の機会を含む将来予測の原則を充足するか否かについては慎重な判断がなされているのが実情です。改善の機会の与え方や期間について3「改善の見込みがないこと」が解雇を実施するにあたって、重要であることは間違いありませんが、その判断は非常に困難です。担当している業務の内容や任されている地位などにも左右されますし、会社の状況によってあくまでもケースバイケースで判断されてしまうため、一定の基準を示すことはむずかしいです。とはいえ、何らの指標もないままでは、実務的にどのように判断すればよいのか具体的に検討することすらできません。そこで、過去の裁判例を参考に判断の方法を検討します。能力不足や勤務態度不良を理由とした普通解雇が有効とされた事例として、東京地裁平成26年3月14日判決(富士ゼロックス事件)があります。中途採用で採用された労働者が、無断で3回の半休を取得したこと、机での居眠り、無断残業、通勤費用の修正、週報の提出遅れ、社用の自転車の私的利用、私用のインターネット閲覧を逐一注意され、これ以上の違反が生じた場合に重大な判断がありうる旨記載した警告書を交付され、それに対して署名押印をした後、会社の命令でほかの支店に異動させてさらに改善を求めましたが、異動後も遅刻し、ビジネスマナーが守られず、メモを取らないうえ、ミスを多発していました。再度研修を実施しましたが、改善できず、再度の警告書を交付しました。さらに、違反事由が多岐にわたるうえ、改善の具体的な見通しがつかないことから、会社は、指示事項を文書化し、その後、当該文書に違反した場合に逐一注意し、複数の指示事項違反が生じた後に、原因と対策を検討するようにレポート作成を命じて提出させていました。結局、レポートの内容は根本的な問題点に関する考察に不足があるものでしたが、解雇の対象者からは「これ以上は教えてもらわなければわからない」などと話がされたので、具体的な訂正指示をしましたが、簡潔なレポートが提出されるに留まったため、最終的に解雇に至り、この解雇は有効と判断されました。ポイントをまとめると、①違反事由に該当する行為が記録化され、注意した旨が残されていたこと、②支店へ異動させて環境を変えて改善の機会を再度与えていること、③警告書や指示事項を文書化するなどの方法で、改善点の特定および明確化を複数回図っていること、④労働者の自己認識を把握するためにレポートを作成させていること、などがあげられます。また、これらの状況もふまえて、業務の成果に対する人事考課においても低い評価が継続されていたという点も無視することができません。改善のための回数や期間なども無視できませんが、やはり、違反事項と注意の記録を残すことと、フィードバックを行うことにより注意に対する自己認識を明らかにすることが必要と考えられます。今回のケースでは、レポート作成をさせたことが、改善すべき課題を明確に認識させたことにつながっており、ほかの事例でも参考になるのではないでしょうか。エルダー41知っておきたい労働法AA&&Q

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