エルダー2022年7月号
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高齢社員のモチベーション低下と賃金・評価制度人事管理の基本原則と賃金・評価制度平成期の賃金・評価制度多くの企業で高齢社員の継続雇用制度が採用されているにもかかわらず、マンガでは、若葉さんの会社の高齢社員はやる気に満ちあふれて(仕事への取組み意識が高く)、活き活きと働いている一方で、若葉さんの伯父さんや中田さんのお父さんが勤めていた(勤めている)会社では、高齢社員のやる気が落ちている(仕事への取組み意識が低い)状況にあります。こうした状況は「高齢社員のモチベーション低下の問題」と呼ばれて、一般に60歳の定年後、継続雇用に切り替わると仕事内容が大きく変わらないのに賃金が下がることがその背景にあります。若葉さんの会社も60歳定年でその後継続雇用となりますが、高齢社員のモチベーション低下の問題がみられない状況にあるようです。両者にどのような違いがあるのでしょうか。解説1では、賃金・評価制度の視点から考えてみたいと思います。まず基本原則の確認からはじめていきます。賃金・評価制度を含め企業の人事管理の個別施策(仕組み)はそれ単独で設計されているのではなく、図表1に示しているように経営方針・戦略に基づいた人材活用の基本方針に沿って整備されます。高齢社員の賃金・評価制度についてもこの基本原則に沿って展開されています。また、人事管理の仕組みを整備する際には、この基本原則に加えて労働法制を遵守することが求められます。例えば、男女雇用機会均等法は、募集や採用を行う際には性別による差別を禁じています。さらに労働基準法は、法定労働時間を超えて労働者を労働(時間外労働、いわゆる「残業」)させたり、法定休日に労働(休日労働)させたりするには、労働者の代表と時間外労働協定あるいは休日労働協定(いわゆる「36協定」)を締結し、割増賃金を支払うことを使用者に義務づけています。高齢者雇用については、総論で取り上げている高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)を遵守することが求められ、2012(平成24)年改正の高齢法(以下、「旧高齢法」)の施行以降、実質65歳定年制(60歳定年+65歳までの再雇用)の整備が推進されてきました。の賃金・評価制度の変遷を国の高齢者雇用政策との関連でふり返ってみたいと思います。図表2はその概要を整理したものです。国が65歳までの雇用確保に取り組み始めたのは、1990年の高齢法改正です。1990年の改正高齢法では、65歳までの継続雇用を推進するため、定年到達者が希望する場合の定年後再雇用の努力義務が企業に課せられました。60歳定年を義務化した1996年の高齢法改正を経て、2000年の改正で、定年の引上げ等による高年齢者雇用確保措置の導入が努力義務化されました。こうした一連の高齢法改正を受けて、企業は65歳までの雇用推進を基本方針に掲げ、人事管理の整備に取り組みました。65歳までの雇用確保が努力義務であったこと、また高齢社員の人数について、従業員の労務構成において大きな集平成期に企業が進めた65歳雇用推進のなかで労働法制特集新任人事担当者のための高齢者雇用入門図表1 人事管理の流れ13エルダー※筆者作成経営方針・戦略《人事管理》人材活用の基本方針個別施策(賃金・評価制度等)

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