エルダー2022年7月号
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求められる戦略的活用のあり方〜現有能力の「活用」から「進化」へ力として仕事の成果を出して経営業績に貢献することを重視する戦力的活用ではなく、政府の高齢者雇用政策に協力するという社会的責任を果たすための福祉的雇用がとられ、高齢社員に対するキャリア支援等は積極的に行われていませんでした。平成期に入り、政府は65歳までの雇用確保に向けた高齢化対策をとるようになり、2000(平成12)年の改正高齢法では65歳までの雇用確保措置が新たに設けられました。高齢法改正を受けて、企業は65歳雇用の推進に向けた取組みを始めたものの、65歳までの雇用確保措置は努力義務ということもあり、平成期前半の高齢社員活用の基本方針は、これまでの福祉的雇用を継続する対応が多くみられていました。高齢社員比率は高くなっているものの、キャリア形成は引き続き管理職を目ざした「のぼるキャリア」がとられ、キャリア支援も管理職になるための研修やサポート体制等が継続されました。平成期後半になると高齢者雇用を取り巻く環境は大きく変わりました。65歳までの雇用確保を義務化した2004年の高齢法改正、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みを廃止した2012年の高齢法改正です。社員に占める高齢社員比率が高まるなか、こうした一連の高齢法改正を受けて企業は希望者全員の65歳までの雇用確保を目ざした実質65歳定年制の整備に取り組み始めました。とりわけ、人手不足に悩まされている産業、企業では高齢社員の活用方針が戦略的活用に転換される一方、大企業を中心に組織運営上の観点から役職定年制を設ける動きがみられるようになりました。そのため、キャリア形成のあり方は、定年前に管理職を離れる「くだりのあるキャリア」への転換が図られ、役職定年後も一社員(以下、「一般社員等」)になりますが、引き続き職場の戦力として活躍してもらうための研修(キャリア研修等)やサポート体制が役職定年を設けている企業で行われるようになりました。役職定年を実施しているマンガに登場する企業では、年齢別研修や年齢にかかわりなく業務に必要な知識・スキルや技術を習得する研修が行われているため、役職定年と60歳定年の二度の定年を経験した高齢社員は、引き続き職場の戦力として活躍しているのです。高齢社員の活用方針の、戦略的活用への転換が平成期後半に進められましたが、そのもとでの具体的な取組みを確認すると、実質65歳定年制が確立された際には、「のぼるキャリア」のもとで、60歳定年後の継続雇用の5年間を戦力として活躍することが高齢社員に求められていたので、戦略的活用の施策として、これまでつちかってきた経験やスキルを活かす「いまある能力をいま活用する」こと(現有能力の活用)が企業にとっても高齢社員にとっても合理的でした。の観点から大企業を中心に役職定年制が導入されるようになり、一般社員等としての就業期間が10年(役職定年を55歳とした場合)に延びました。「十年一昔」ということわざがあるように「10年」という期間には社会をはじめ市場や技術が大きく変化しますので、現有能力の活用を継続することが困難になりました。役職定年を実施している企業では、高齢社員の戦力的活用の修正が図られ、現有能力の更新に向けたキャリア教育や教育訓練体系の整備等のキャリア支援体制の拡充が進められました。務化されたことにより、今後は就業期間の延伸が進むことが考えられます。そうなると、組織運営上の観点から先に述べたように管理職を目ざした「のぼるキャリア」を継続することが困難となり、大企業を中心にみられる役職定年制の導入が多くの企業で広がるとともに、それにともなうキャリア形成のあり方も「くだりのあしかしながら、先に述べたように組織運営上2020年の高齢法改正で70歳就業が努力義2022.718

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