エルダー2022年7月号
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退職金請求権の発生社外積み立ての退職金ることが多いといえます。2労働者が、退職慰労金請求権を取得するためには、各社において定められた規程に沿った要件を充足する必要があり、退職すれば当然に請求することができるとはかぎりません。例えば、過去の裁判例のなかには、退職金の上乗せ部分が支給されなかった労働者が、当該退職金の上乗せ部分を請求した事件において、請求権の発生に関する判断をしたものがあります(東京地裁平成19年12月21日判決、「ルックジャパンほか事件」)。まず、「(事業の縮小等による解雇)又は会社の解散によって解雇される者に対する退職金は、第2条で得た退職金の額と、当該金額に100分の100を限度とした割合を乗じて得た額の合計額とする」との条項の解釈について、『支給することができる』という文言と異なり、断定的な規定の仕方をしていること」を理由に、上乗せ部分の給付を受ける権利を有することを定めたものと判断しています。一方で、「第4条の文言をみる限り、『限度として』という文言により、100分の0から100分の100までの範囲で、使用者が定めた割合の金額を加算するという趣旨と解するほかない。したがって、第4条が定めた権利の内容は、使用者が決定した割合の金額について権利を有するというものといわざるを得ない」として、使用者による支給決定がないかぎりは、具体的な金額が定まらず、請求権が生じないという結論に至っています。条文の末尾の記載だけで、権利が発生するのか否かが左右されたことも注目すべき点ですが、使用者の裁量の余地を広く認めていることにも着目すべきであり、退職金支給に関する規定の文言をいかなる記載にしておくのかということがいかに重要であるかを示しているといえます。3中小企業などでは、中小企業退職金共済制度(以下、「中退共」)などに加入しておき、毎月の掛け金を企業が負担することにより、従業員の退職時の退職金がその制度に基づき支給されるという場合もあります。中退共を利用する場合の注意点としては、労働者に対する退職金の支給額は、あくまでも労使間の合意または就業規則により定まることになるため、中退共による支給予定額と矛盾が生じないように規程を整備しておく必要があります。仮に、退職金規程による支給すべき金額が、中退共により支給される金額よりも高い場合には、中退共から支給される金額に加えて不足額を使用者が負担しなければならないことになります。額が、退職金規程に基づく支給額を上回る場合に、差額の取扱いはどうなるのでしょうか。過去の裁判例において、使用者がこの差額の返還を労働者に求めた事案があります(東京高裁平成17年5月26日判決「湘南精機事件」)。額のうち使用者の退職金規程により算出した退職金額を超える部分につき、労働者が使用者にこれを返還する旨の合意をしていました。この合意の内容が、改正前の中小企業退職金共済法の趣旨に反して、公序良俗に反するものと判断された結果、企業からの返還請求権は否定されています。類似の事件としては、中退共から支給された金額が使用者の定める退職金額を上回る部分について、不当利得に基づく返還請求をした事件もありますが、こちらでも、中小企業退職金共済法に基づき受給する権利が労働者にあること、使用者には損失がないことなどを理由に、返還請求は否定されています(東京簡裁平成19年5月25日判決)。金に充当することについても明確にしておかなければ、加算するのか控除するのかが不明確になることがあります。それでは、逆に、中退共から支給される金この事案では、中退共から受領する退職金そのほか、中退共から受領する金額を退職したがって、中退共などを利用する場合に45エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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