エルダー2022年7月号
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裁判例の紹介ので、どこに通報するかによっても保護されるかどうかが変わってきます。適切な公益通報に該当するかぎりは、不利益取扱いが禁止されており、これに違反する解雇処分は、無効と考えられています。2内部通報を行う場合には、公益通報者保護法が遵守されるべきではありますが、仮に公益通報に該当しないとしても、同法の趣旨から、解雇の効力が制限されることがあります。通報者が、内部通報を行うことによって、通報対象となった事実に関連する当事者は、その社会的な評価が低下することなどによって、名誉棄損が生じるおそれがあります。名誉棄損に基づく損害賠償責任に関しては、その目的が公益目的であること(私利私欲のみを目的としていないこと)、当該通報した事実が真実であるか、真実であると信じるに足りる相当な理由があるときには、違法ではなくなり、賠償責任を負担しないという判断が、判例では確立されています。公益通報に基づく懲戒解雇に関しても、これに類似するような判断が裁判例にもあります(東京地裁令和3年3月18日判決「神社本庁事件」)。当該裁判例では、代表者や幹部職員による背任行為が通報対象事実とされていました。これについて、裁判所は、「労働者が、その労務提供先である使用者の代表者、使用者の幹部職員及び使用者の関係団体の代表者の共謀による背任行為という刑法に該当する犯罪行為の事実、つまり公益通報者保護法2条3項1号別表1号に該当する通報対象事実を、被告の理事及び関係者らに対し伝達する行為であるから、その懲戒事由該当性及び違法性の存否、程度を判断するに際しては、公益通報者保護法による公益通報者の保護規定の適用及びその趣旨を考慮する必要がある」として、公益通報者保護法の趣旨に則して、解雇の有効性を判断すると判断されました。また、その具体的な判断基準としては、「①通報内容が真実であるか、又は真実と信じるに足りる相当な理由があり、②通報目的が、不正な利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、③通報の手段方法が相当である場合には、当該行為が被告の信用を毀損し、組織の秩序を乱すものであったとしても、懲戒事由に該当せず又は該当しても違法性が阻却される」として、懲戒解雇が無効になる要素を示しています。さらに、「①〜③の全てを満たさず懲戒事由に該当する場合であっても、①〜③の成否を検討する際に考慮した事情に照らして、選択された懲戒処分が重すぎるというときは、労働契約法15条にいう客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当性を欠くため、懲戒処分は無効となると解すべき」ともしており、懲戒解雇がその社会的信用の低下と比較して相当性を欠く場合にも、無効になると整理しています。したがって、単に公益通報である場合のみではなく、その相当性を欠く場合などにおいても、懲戒解雇が無効になることが示されているといえます。は認定されませんでしたが、真実と信じるに足りる相当な理由があり(①の要件を充足している)、また、通報目的が不正な利益を得る目的、他人に損害を与える目的、その他不正の目的であるとはいえないとされ(②の要件を充足している)、内部の職員への通報では調査が期待できなかったことから理事らへ文書を交付したこともやむを得ない相当なものであった(③の要件を充足している)とされた結果、懲戒すべき事由がないと判断されています。通報や外部通報に対する関心は高まっていくと思いますが、通報者を処分するケースは限定的であり、まったくの虚偽の通報であるのみならず、それを信じる理由もないことなども求められる点にも留意する必要があります。今後は、通報が行われたときに通報者を処分する方向ではなく、通報をコンプライアンス遵守に活かすような発想がいっそう求められることになるでしょう。この事件では、実際に背任行為があったと公益通報者保護法の施行にともない、内部47エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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