エルダー2022年7月号
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 3 軽い負荷で効果の高い「スロートレーニング」高齢者でも筋肉を増やすことができるを少し鍛えてあげればよいのです。石井実は筋肉が太くなる仕組みはこれまであまりよくわかっていませんでした。昔はアスリートのようにジムなどで重い物を持ち上げることが筋肉強化のセオリーでした。たしかに筋肉に強い負荷をかけると、それに負けまいとして筋肉が太く強くなるので現象的には正しいのですが、大きな力を出すと血圧が急上昇し、関節や腱に強い負荷がかかりけがもしやすくなります。しかし15年ほど前から、顔を真っ赤にして重い物を持ち上げなくても筋肉を強化することが可能であることがわかってきました。さらに私たちの研究では、軽い負荷をかけることで、ねらった筋肉だけを速く鍛える(筋肉を疲れさせる)ことが可能であることがわかりました。その一つが筋肉内の血液の流れを少し制限することです。実は、筋肉は力を出すと筋肉内の血管が圧迫され血液が流れにくい状態になり、力を抜くと筋肉が緩んで血液が流れるというポンプ作用があります。つまり筋肉の血流を制限して筋トレを行うと、軽い負荷のトレーニングでも高い効果を上げることがわかったのです。それが最初にわかったのは腕や足の付け根に専用のベルトで圧力をかけ、筋肉内の血流を制限して行う「加圧トレーニング」の研究でした。しかし外側から血液の循環を制限して運動するのは専門家がついていないと危険です。そこで自分の力で筋肉の血液の流れを少し制限できないか、という発想で生まれたのがスロートレーニング、「スロトレ」です。石井 力で血液の流れが抑制され、緩めると血液が流れ込むという状態になります。筋肉が力を出した状態を維持するにはどうすればよいかと考えたとき、空気椅子に座るように少ししゃがんだ状態にすれば下半身の筋肉に力が入ります。また筋肉は力を出して止まっているとエネルギー消費量が少なくなってしまうという特性があり、なかなか疲れてくれません。そこでゆっくり動かしながら力をずっと入れた状態にすると、手っ取り早く筋肉が疲労し、太くしようとする反応が起こるのです。筋肉の力が緩まないように同じ力を発揮したまま、ゆっくり上げたり、下げたりする動作をすると筋肉が太く強くなってくる。これは動物実験でも実証されていますし、高齢者でも効果があります。最大の力を出さずに、その3割程度の―筋トレが重要になりますが、筋肉を太く強くするメカニズムとはどういうものですか。―スロトレとはどういうものでしょうか。エルダー

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