エルダー2022年7月号
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会社の支援制度を知り保険に加入しておくことが大切受け、後から脳腫瘍であることが判明したのですが、そのときは病名が不明のままでした」と根尾部長。その後、抗がん剤と放射線治療をすすめられるが、放射線治療は長期入院が必要になると考えて拒んでいたという。しかし治療の初期は入院が必要なものの、副作用がひどくなければ朝に治療を受けて、その後出社して仕事することができるとわかり、会社とも相談のうえ、両立支援制度を活用して時短での復職を果たす。現在は投薬治療に切り替えてフルタイムで勤務している根尾部長だが、実際に両立支援策を活用したことで、いくつかの課題に気づくことができた。「例えば『傷病休暇』は診断書を提出すれば最長1カ月の休暇を年2回まで有給で取得できる制度ですが、同じ年度内では同一事由での取得が不可だったのです」。しかし、時間をかけて治療したいケースでは1カ月を超えることもありうる。そこで2021年の改正では、同一の事由で連続して取得できるようにしたのだ。こうして同社の両立支援策は、より使いやすく当事者の側に立ったものへと進化している。自分ががんであるとは思いもよらず、告知されたときは相当なショックがあったという根尾部長だが、病気に対する不安以外にも、罹患してみなければわからない「リアルな不安と学び」があったという。まず高額になると思われる手術や治療費の問題だ。突然入院したので、いくらかかるか事前に知ることができなかった。「もちろん人事部ですので会社の高額療養費支援制度などはわかっていました。そうした制度が整備されていたことが非常にありがたかったですね」と根尾部長はふり返る。また生命保険の内容によっても個人負担は大きく異なってくる。根尾部長自身はたまたまがん治療の補償に強い生命保険に加入していたが、そうでなかったらどれほどの負担になったかわからない。さらには最近のがん治療は長期入院となることは少ないため、入院費に手厚い保険より通院治療メインの方が時代にマッチしていることなども、患者になってはじめて意識したことだ。こうした実体験を、根尾部長は社内外の講演会などでできるかぎり伝えるようにしているが、その反響は大きい。特に保険に関しては興味を持つ人がかなりいて、若手の社員からも「保険に入っていなかったのですが入ります」という声があがったそうだ。根尾部長自身、病気に対する怖さを知って得た教訓としては「病気になるのは、ある日突然です。まずは社内の支援制度を覚えつつ、万が一の備えとして保険に入っておくことが大切」と強調している。同社では両立支援以前に早期発見をうながすことが大切だという考えから、職域でオプション追加できるがん検診とその結果に基づく二次検診費用を会社が負担している。特に二次検診の受診率を向上させるため、産業保健スタッフや人事部は早期発見がとにかく大事だと強く訴える活動をさまざまに展開しているが、その決め手となるのが根尾部長の体験エピソードだ。最近もオンラインの店長会議で、「私のような経験は二度としてほしくない」という思いを込めて、二次検診の大切さを訴えたという根尾部長。「やはり実体験というのは、みなさんの心に響くようでした。今後も自分自身の体験と思いを伝えていくことが、私の使命だと考えています。理想は、だれも病気にならない、だれもがんにならないことです。もちろん現実としてはむずかしいですけれども、できることは確実にありますので、それを今後も着実に続けていこうと考えています」と、根尾部長は粘り強く訴え続ける決意を語ってくれた。49エルダー病気とともに働く

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