エルダー2022年7月号
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運用に関する留意点るととらえられがちです。たしかに、2009年はリーマンショックによる各社の業績悪化に対応して実施するケースが多かったのですが、近年の実施目的は、より複雑化しています。①新型コロナウイルスによる業績悪化への対応アパレル・繊維業や観光・飲食業等に代表されるように、2020年以降本格化した新型コロナウイルスは多くの企業に業績の悪化をもたらしました。これらに対応するため、特に希望退職によって一定期間で社員数と人件費を減らし、業績改善につなげていくことを目的としています。②組織の若返りに向けた対応社員数のボリュームゾーンが中高年齢層である企業のなかには組織が硬直化する、新規取組みへの対応が遅れる、人件費が高年齢層に集中し若年層の給与が上がらないといった事象が発生することがあります。そこで、中高年社員に次のキャリアについて社外での活躍を見すえ制度を活用してもらう一方で、若年層の採用や処遇改善による定着を行うことを目的としています。③事業や業務の見直しに向けた対応経営環境の変化に対応するために、既存事業を縮小・撤退し、新規事業に経営資源を配分し直すことに取り組む企業や、生産性の向上や将来の人手不足を見すえてデジタル化による人の手を介さない業務を推進する企業が増えています。これら既存の事業や業務に従事していた社員の新たな事業・業務の受け持ちがむずかしい場合は、社外に活躍の場をみつけてもらうことを目的としています。特徴的なのは、業績好調時でも早期退職・希望退職を実施する企業が多いことです。東京商工リサーチの調べでは、2021年に早期退職・希望退職を募集した企業のうち直近本決算が黒字の企業が44%にのぼり、早期退職・希望退職の目的がもはや業績悪化への対応にとどまらないことを示しています。黒字企業の多くは②や③のような目的で早期退職・希望退職の制度を実施しており、今後もこの流れは継続するといわれています。について触れていきます。留意点としてよくあげられるのは、優秀人材の流出です。多くの企業では、応募してきた社員を企業が承諾することで制度を活用できるとしています。制度上は特定の人材の引き留めは可能ということになりますが、実務上は恣意的に認めないことも限界があり、場合によっては応募者とのトラブルになります。また、特に希望退職のケースでは、応募人数を満たすために社員に対して退職勧奨をすることがあります。退職を〝勧める〟こと自体は可能とされていますが、何度も短期間で面談をくり返したり、応じない社員を意図せぬ業務に従事させたりすると退職強要と受け取られ、労務問題に発展することがあります。退職という人生の一大事にかかわる制度ですので、導入・運用に際しては弁護士などのアドバイスを受けながら進めていくことが望まれます。最後に、早期退職・希望退職の運用の留意点次回は「社外取締役」について取り上げます。51エルダー出典: 東京商工リサーチ「2021年上場企業『早期・希望退職』実施状況」※募集人数で募集枠を設けていないケースは応募人数をカウントした。※資料は「会社情報に関する適時開示資料」などに基づく。22,95017,70512,2238,623191200985201058201111,35110,7829,9668,8525,7853,0874,126122018632012542013322014322015182016252017図表  主な上場企業における早期・希望退職者の募集状況(社)200180160140120100806040200社数人数20,00015,00010,0005,000(人)25,00018,63515,8923520199320208402021(年)■■■■■■■■いまさら聞けない人事用語辞典

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