エルダー2022年7月号
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石井何か一つを選べといわれたら、太ももとお尻の筋肉を使い、ゆっくりとしゃがんで立ち上がるスロースクワットがよいでしょう。もちろんいろいろなスクワットを試してもよいのですが、どこかに痛みを感じるなど、違和感がない範囲でやり方を工夫することが大事です。私の著書『いのちのスクワット』(マキノ出版)では、4秒かけてしゃがみ、4秒で立ち上がる動作を推奨していますが、この動作を1分程度くり返すと、筋肉の疲労が強くなります。1回8秒で1分だと大体7〜8回になりますが、これを1セットとし、少し休んで計3セットやると確実に筋肉が太く強くなることが実証実験でわかっています。3セットがむずかしい場合は1セットから    始めて、慣れたら徐々に増やして3セットを目標にします。毎日行う必要はなく、むしろ間隔を置いて週2〜3回やるほうが効果があります。実際に筋肉が太くなるには3カ月程度かかりますが、2〜3週間後には「階段を上るのがすごく楽になった」、「体が少し軽くなった」と明らかに身のこなしが違うように感じてくると思います。石井 鍛えていればがんを防げるとはさすがにいえません。しかし、たとえがんになっても、筋肉がしっかりしていて体力もあり、大きな基礎疾患を持っていないことは治療を乗り越える武器になると確信を持っていえます。治療に耐えて生き延びるには基本的な生命力が必要ですが、生命力の根源の一つはやはり筋肉なのです。石井 なほど忙しい状態が半年ほど続いていました。ふり返ると、急ぎ足の生活のなかでストレスがかかっていたのでしょう。ストレスは免疫機能を低下させますし、がんは細胞増殖の過程で発生する異常な細胞が原因となりま(聞き手・文/溝上憲文撮影/中岡泰博)一つひとつの動作・作業をていねいに行い「スローな生き方」で人生をポジティブに実際にがんになってしまうと、筋肉を悪性リンパ腫と診断されたとき、異常す。当時の私の体には何らかのサインが何度も出ていましたし、ちょっと立ち止まって自分の状態に注意しておけば防げたのではないかと考えます。以前の私は仕事が終わらなければ安心して寝られず、結局どんどん引っ張ってしまうところがありました。でも病気をしてからは、仕事が終わらなくても「今日はここまで、後は明日からやればいい」と割り切れるようになり、根本的な考え方が変わりました。ムを遅くするという認識ではなく、一つひとつのことに時間をかけて、ていねいにやるという発想に切り替えることです。年を重ねると動作が遅くなり、作業も遅くなりますが、それはテキパキとできないことではありません。むしろ、ゆっくりとていねいにやるようにしているのだと、ポジティブにとらえて生きていくことが大切だと思います。また、スローな生活というのは、生活リズ―高齢者でも気軽に取り組みやすいスロトレを教えてください。―先生は二度にわたりがんを克服されました。改めて筋肉と健康についてどのように感じていらっしゃいますか。―著書では、がんを体験されて「スローな生き方」に気づかされたとも述べています。2022.74東京大学 名誉教授石井直方さん

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