エルダー2022年8月号
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■■龍馬のやりたかったこと 「何をにぎっているンだ? ストルか」と疑う観光客もいる。が、いまでは、 「ちがうよ、万国公法だ」というのが定説になっている。あざやかなパフォーマンスで、一介の商人郷士の身で、幕末の国政(討幕側、幕府側の両側)に、政局打開の知恵を出した龍馬だが、そのために両側に敵を生んで、慶応三(一八六七)年十一月十五日に暗殺された。真犯人はいまだにナゾとされている。私はかれの生き方には問題があったと思う。〝死に急ぎ〟でなく〝生き急ぎ〟をした。着想が抜群でその成功を急いだ。日本で仕事の達成を時間短縮してくれるのは、何といっても〝人間関係〟である。それも〝必要なヒトとカネ〟を動かせる人物に頼むのが手取り早い。〝実力者〟だ。実■美■(公家)や西郷隆盛(薩摩藩〝エラい人〟と呼ばれる存在だ。 「幕府打倒、新政府樹立」の目 「坂本も大臣に加えよう」 ■■■                   ピ龍馬はこのエラい人ばかりをねらった。かれの人間術でこれが成功した。そのためかれが生前交流した相手は、農工商の生活者が少ない。明治維新を必要としていたのはこの層であって、エラい人のための政治改革ではない。龍馬には龍馬の考えがあるだろうが、この点かれの維新参加には惜しいものを感ずる。慶応三年の暮れ近く、討幕側ではほぼ、標が立った。組閣の責任者は三■条■士)などだ。という話になった。準備局に呼ばれた。 「坂本さん、どんなポストがお望みかね」三条がきく。龍馬は笑う。 「前から申しあげているように、私は役人には向きませんよ。わがままですからね。お断りいたします」三条たちは顔を見合わせる。やっぱりダメかと落胆する。西郷がきく。 「坂本さん、おはん(あなた)、一体何をやる気かね?」この問いには龍馬は笑い出す。 「そうですな、世界の海援隊でもやりますかな」龍馬の夢だ。土佐で海援隊というのをすでにつくって運営している。「規約」があって第一条に、 「藩を脱する者、この隊に入る」とある。表現がややこしいが要するに、 「海援隊に入りたければ、藩などという組織から抜け出して自由の身になってこい」ということなのだ。 「自由人の海の集団」だ。国内では実行している。それを世界的規模にしようというのだ。まわりにいた者は、 「また坂本さんの大ボラだ」と笑う。しかし龍馬にすれば案外本気だったかも知れない。 「世界協同貿易会社」の必要性は現■代■も高まっている。龍馬ははるか遠い未来をみていたのかも。31エルダー

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