エルダー2022年8月号
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「高齢社員が急激に増加してきているなかで、高齢社員のやる気は高いのに、環境整備が追いついていないために生産性が低い状態である」という結論が導かれたとします。これに対して、「市場全体としては縮小傾向にあるなか、高齢社員の能力・スキルが早期に陳腐化していくおそれがあり、再教育には莫大な費用がかかる」という予測が、高い精度でなされたとします。このような場合、「高齢社員活用を積極的に推進し、現役を続行してもらうことが可能なのか」ということは慎重に議論すべきですし、高齢社員に期待する役割を「現役の続行」ととらえるのではなく、「経験を活かした異なる貢献」ととらえる方が現実的(処遇もそこに合わせていく)なケースもありえるでしょう。改めて、高齢社員の活用方針を類型化すると、おおむね三つに分かれると筆者は考えます(図表2)。これは各企業がとりうる高齢社員活用のスタンスといい換えてもよいでしょうが、スタンスが明確に定まっていれば、各種の制度や仕組みを構築していく際もスムーズに展開していくことが可能です。もっとも、どの類型が良い悪いということではなく、各社の実態にマッチしていることが重要です。時間軸の視点も大切であり、例えば短期的には高齢社員の活躍できるフィールドを限定的にとらえたとしても、中長期的には生涯現役を実現するための取組みを計画的に行っていく必要がある、という2段階スタンスをとることも企業によっては現実的な選択肢になりえます。4最後に伝、達高す齢る社ポ員イの活ン用ト方針から、高齢社員自身に期待する役割を伝達するポイントについて解説します。説明会などの場で会社の方針について伝えていくことは最低限必要ですが、それだけでは不十分です。これまでの仕事のやり方や考え方を転換していくことはだれしもむずかしいことですから、高齢社員に現役の続行を期待する場合も、まったく別の役割を期待していく場合も、直接対象者と面談を行って会社の意図を十分に伝えるようにしてください。場合によっては、研修のような形で高齢社員同士が期待される役割についてディスカッションし、理解・認識を深めることができればさらに効果的ですし、そうした取組みを行う企業も徐々に増えてきています。ます。 等級評価賃金活用次回は「評価・処遇制度」についてお伝えし高齢社員に期待する役割を※新経営サービス人事戦略研究所作成39図表2 高齢社員の活用方針(主要3類型)制度設計における主要検討論点雇 用 形 態限 定 活 用 型正社員と変わらず高度な貢献内容を求める社員と、限定的な貢献のみを求める社員とで、メリハリをつけて活用する再雇用後のコースまたは役割等級制度を設ける再雇用後のコースに応じた評価表を作成する(目標管理中心)再雇用後の給与テーブルを再雇用後の賞与制度を柔 軟 活 用 型年齢に関係なく、積極的にシニア社員を活用する65歳、70歳まで運用できる等級制度を設計する設計する設計する個別ニーズ(身体的衰え等)に対応するため多様な働き方を支援する(選択定年制)本人の志向や能力をふまえて、今後の新陳代謝や職務転換を含めた働き方についての意識教育を行う(キャリア教育等)職務転換を視野に入れて活用する(限定的な仕事担当の専門領域において活用する(これまでの能力や知見の創出を図るとともに計画的な職能教育を行う)が陳腐化しないように、継続的な教育環境を整備する)生 涯 現 役 型等級制度(役職制度)の設計をどのようにするか?評価制度の設計をどのようにするか?給与テーブルの設計をどうするか?賞与の支給をどうするか?新陳代謝をどう考えるか?職務転換をどう考えるか?シニア社員に対しては限定的な仕事での雇用機会のみ提供し、法的な対応を最優先して活用する基本的に再雇用(契約社員か嘱託社員等)する再雇用後は、等級制度を設けない(個別対応)再雇用後は、評価をしない個別に設定するまたは、定年時の給与基準に一定額を減額して設定(昇給なし)再雇用後は、賞与を支給しないまたは寸志程度の支給貢献度の低い社員に対して新陳代謝を促す(早期退職制度)引き続き正社員で雇用する正社員と同様の評価を行う生涯賃金を考慮した賃金カーブを描ける給与テーブルを設計する正社員と同じ賞与制度を適用する生涯現役時代の高齢社員活躍支援のポイント

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