エルダー2022年8月号
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約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる場合には、正社員に対する解雇と同程度の要件(客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当であること)を充足しなければ、労働契約は終了せずに、従前と同一の労働条件のまま継続することになります。では、嘱託社員も有期雇用労働者であるとすれば、労働契約法第19条により保護されることになるのでしょうか。60歳定年後の嘱託社員であれば、60歳から1年毎に労働契約を更新することになり、65歳になるまで雇用が継続されるとすれば、5回程度の更新があることになり、反復継続する更新はありそうです。また、65歳になるまでの間は、継続雇用しなければならないという意識から、更新の手続なども形骸化してしまいがちかもしれません。2定年後の再雇用者について、労働契約法第例を紹介します。事案の概要は、タクシー運転手として勤務し、67歳での定年退職後は1年間の有期の嘱託雇用契約を結んで稼働し始め、その後、一度労働契約を更新していた労働者が、自転車との接触事故を起こしたことを、会社にただちに報告していなかったことなどを理由に、雇止めによる労働契約の終了を行ったところ、労働者がこれを無効と主張して争った事案です(東京地裁令和2年5月22日判決)。会社は、たとえ乗務員1人の事故であったとしても、会社全体において行政処分を受けるおそれがある行為であり、会社においては、事故の不申告事案を撲滅するための指導教育を行い、違反者には厳重な処分を行う必要があるといった点を主張しており、雇止めを行うことには客観的かつ合理的な理由と、社会通念上の相当性も充足していたことを強調しています。裁判所の判断は、「タクシー運転手が定年である67歳に達した後も、嘱託雇用契約を締結して雇用を継続してきたこと、被告のタクシー運転手のうち、70歳以上の運転手は16パーセントに上ること、…(中略)、定年退職後の嘱託雇用契約についても契約書や同意書等の書面の作成がないまま、嘱託雇用契約を一度更新したことが認められ、これらの事実に照らすと、69歳に達した原告においても、体調や運転技術に問題が生じない限り、嘱託雇用契約が更新され、定年前と同様の勤務を行うタクシー運転手としての雇用が継続すると期待することについて、合理的な理由が認められるというべき」として、定年退職後の嘱託社員についても、労働契約法第19条の適用を認めています。そして、雇止めの相当性について、「本件接触は、左後方の不確認という比較的単純なミスによるもので、接触した自転車の運転者は、ドライブレコーダーの記録から受け取れる限り、倒れた様子は見受けられず、接触後すぐに立ち去っていることから、本件接触及び本件不申告は、悪質性の高いものとまではいえない」ことや、「警察においても、本件接触や本件不申告を道交法違反と扱って点数加算していないことも踏まえれば、本件接触及び本件不申告は、警察からも重大なものとは把握されていないこと」などを評価したうえで、労働者自身が、自ら本件接触を報告し、本件接触を隠蔽しようとはしていないこと、接触の原因や不申告の重大さなどについて注意、指導を受けた内容を記憶し、反省している様子であることなどを総合的に考慮して、雇止めが重過ぎる処分であるとして、雇止めを無効と判断しました。であったとしても、雇止めに対して労働契約法第19条による保護が適用されることがあるという点です。紹介した裁判例では、更新回数はまだ1回だけであったにもかかわらず、更新に対する合理的期待があったと判断されている点も特徴的です。上の労働者が16%もいたことも特徴ですが、さまざまな会社で共通すると思われる事情としては、定年退職後の嘱託雇用契約について注目しておいてもらいたいのは、嘱託社員期待を生じさせた背景事情として、70歳以裁判例の紹介19条を適用すべきか否かが問題となった裁判41エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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