エルダー2022年8月号
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もできないといえます。また、「職務命令は、それがたとえ違法であつたとしても、被用者としてはこれを拒否することは事実上困難であり、特にこのような職務命令が繰り返しなされる時には、被用者に不当な圧迫を加えるおそれがあることを考慮すると、かかる職務命令を発すること自体、職務関係を利用した不当な退職勧奨として違法性を帯びるものと言うべき」とされています。ここでのポイントは、くり返しなされるときという限定がなされていることであり、退職勧奨を開始するための呼び出し自体が違法になるわけではありません。ただし、「被勧奨者が退職しない旨言明した場合であつても、その後の勧奨がすべて違法となるものではない」としつつも、「特に被勧奨者が二義を許さぬ程にはつきりと退職する意思のないことを表明した場合には、新たな退職条件を呈示するなどの特段の事情でもない限り、一旦勧奨を中断して時期をあらためるべき」とされており、明確な拒絶の意思表示があった場合には、退職条件の再提示などをともなう内容とする必要があります。なお、違法と評価するにあたっては、「勧奨の回数および期間についての限界は、退職を求める事情等の説明および優遇措置等の退職条件の交渉などの経過によつて千差万別であり、一概には言い難いけれども、要するに右の説明や交渉に通常必要な限度に留められるべき」とされており、回数や期間にも注意が必要です。この判例の事案では、約2カ月の間に11回から13回程度かつ、長いときには2時間15分におよぶ退職勧奨が行われていたというものであり、多数回かつ長期にわたっていたことから、「あまりにも執拗になされた感はまぬがれず、許容される限界を越えているものというべき」と判断されています。介した判例においては、退職勧奨におい3紹て告げられるべき内容に関しても「被勧奨者の家庭の状況等私事にわたることが多く、被勧奨者の名誉感情を害することのないよう十分な配慮がなされるべきであり、被勧奨者に精神的苦痛を与えるなど自由な意思決定を妨げるような言動が許されないことは言うまでもない」ともされています。近年では、退職勧奨の場で行われる発言がパワーハラスメントとして違法と評価されるケースがあります。退職勧奨の場において行われやすいパワーハラスメントの類型として、精神的攻撃および過小な要求(能力に見合わない業務しかさせないようにするなど)があります。宇都宮地裁令和2年10月21日判決では、退職勧奨中の発言や退職勧奨継続中の業務命令について、この2類型に該当するか問題となりました。ラ」、「雑魚」など)について、人格非難に該当するパワーハラスメントであるかが争点となった部分については、乗客に「殺すぞ」などの暴言を吐き、そのまま乗客を威圧する態度を維持したことや不正乗車の有無を具体的に確認することなく顧客に疑いをかけたことなど、指導の必要性が高く、叱責などにおける発言に厳しいものがあったとしても、業務上の指導を超えたことにはならないと判断されています。懲戒に相当するような事由のなかでも指導の必要性が高いと判断されたことがこの判断の背景にはあるため、同様の発言が許容されるとは考えない方がよいでしょう。のみを指示し、それ以外の業務を命令しなかったことは、過小な要求に該当すると判断され、違法なパワーハラスメントがあったと評価され、使用者は損害賠償責任を負担するものとされました。よる損害賠償責任は、60万円の支払いを命じられていますが、被害を受けた労働者に精神障害などが発症したか、その治療にどの程度の期間や費用を要するかによってもその総額は大きく左右されますので、金額の多寡ではなく、退職勧奨を実施するにあたって留意すべき点をふまえて、労使間の協議に臨むようにすべきでしょう。退職勧奨中に行った侮蔑的発言(「チンピそのほか、本来の業務とは異なる文書作成この退職勧奨およびパワーハラスメントに退職勧奨とパワーハラスメントについて43エルダー知っておきたい労働法AA&&Q

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