エルダー2022年8月号
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食文化史研究家● 永山久夫2022.856346FOOD日本人は、「とろとろ」とか「つるつる」、「ねばねば」するような粘■■性■■食が大好き。とろろ昆布や納豆、とろろ汁などで、いずれも古くからの長寿食、免疫力強化食としての効果をあげてきました。粘性食のトップは、何といってもとろろ汁でしょう。野山に自生している方が「山芋」や「自■然■■薯■■」と呼ばれ、畑作の方が「長芋」と呼ばれていますが、いずれもとろろ汁の食材です。カツオ節でしっかりだしをきかせた味噌汁でつくったとろろ汁が、食べ方のスタンダードですが、これをご飯にたっぷりかけてつるつるとかっこむ。うまくてうまくて、何杯も何杯もおかわりしないと食べた気がしません。ポンポコ狸のように満腹になってようやく満足。江戸の川柳にも、次のような“満腹作品”があります。「お鉢の麦めしが底をついてしまいました。山ほど麦飯を用意したのに」。恐るべし、とろろ汁。いまでもそうですが、とろろ汁には麦めしが定番。味の相性がとってもよいのです。味に加えて、この麦めしととろろ汁の「麦とろ」コンビは、長寿効果と病気予防効果がとても高いのです。腸のぜん動運動が弱くなり、排便がスムーズにできない状態が便秘です。「便秘大国」と呼ばれるほど、日本には苦しんでいる方が増えているそうですが、麦めしととろろ汁は、両方とも食物繊維がたっぷりで、腸の働きを助ける力も強いのです。全身の免疫力をになっているのも腸。その腸の元気を整えビフィズス菌などの善玉菌を増やす働きをしているのも食物繊維です。「麦とろ」を食べると、食物繊維がたっぷりとれて善玉菌が増え、ウイルスなどに対する免疫力が強化されるのです。デンプン分解酵素のアミラーゼの含有量は大根よりも多く、ご飯の消化促進にはもってこいで、少々大食しても胃もたれしません。そのうえ、食物繊維と同じように免疫力の強化に効くミネラルの亜鉛とマグネシウムもとろろ汁には含まれており、ウイルス感染を防ぐうえでも役に立ちそうです。味噌汁の味噌には大豆アミノ酸が豊富ですから、スタミナ強化にも役に立ちます。「とろとろ」、「つるつる」、「ねばねば」冷や飯を四、五杯かりるとろろ汁「いくらでも、腹に入るとろろ汁。つい隣■■家■から、冷や飯を借りるはめになった」という意味です。麦めしにとろろ御鉢の底が見えさよなら「便秘大国」「麦とろ」でどんどん元気日本史にみる長寿食

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